〜細部まで配慮が行き届いたトヨタらしい車種〜
トヨタ・ノア〜突出したセールスポイントを持たないオーソドックスな車
ノアは5ナンバーサイズのミニバンです。バッジエンジニアリング(同一車種の名称を販売網によって変更すること)によって製造されているヴォクシーやエスクァイアベースモデルになっており、3姉妹車の中ではもっともポピュラーなデザインにまとめられています。
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ステップワゴンが契機となって小型車枠のミニバンを開発
トヨタの5ナンバーサイズミニバンは長く商用車のタウンエースを乗用に改良した車種が販売されていました。これらの車種はエンジンを座席の下にレイアウトして後輪を駆動させるキャブオーバー型のため、どうしても床面が高くなり、車内の快適性が損なわれてしまいます。現在、ミニバンの車種はすべてフロントエンジンで前輪を駆動させるFFに変更され、キャブオーバー型は商用バンにしか採用されていません。
1996年、ホンダはFFの5ナンバーサイズミニバン、ステップワゴンを発売します。パッケージはけっして優れているとは言えませんでしたが、高いユーティリティ性を持っていたことから好調な販売成績を残しました。トヨタは5ナンバーサイズミニバンに大きなニーズがあると判断、2001年にイプサムというステーションワゴンのプラットフォームを流用して低床・FF方式の初代ノアを発売しました。
2014年にフルモデルチェンジして3代目となった現行車にはハイブリッド仕様が追加されています。さらに2016年にはビッグマイナーチェンジを行い、フロントマスクの一部などエクステリアの変更に加え、予防安全装置のToyota Safety Sense Cを設定して安全性能を高めました。
ノアとステップワゴンの主なスペック比較
5ナンバーミニバンはトヨタと日産、ホンダが激しくシェアを競っており、中でもノアとステップワゴンの販売台数は肉薄しています。2016年1〜6月までの販売台数はノアが25,129台、ステップワゴンは28,699台とわずかにステップワゴンがリードしています。ここではノアとステップワゴンの主なスペックを比較します。
ノア(Gグレード) | ステップワゴン(Gグレード) | |
全長×全幅×全高(mm) | 4695×1695×1825 | 4690×1695×1840 |
客室内寸法 | 3220×1500×1425 | 3220×1500×1425 |
車両重量 | 1670kg | 1670kg |
JC08モード | 16.2km/L | 16.2km/L |
最高出力 | 110kW(150PS)/5500rpm | 110kW(150PS)/5500rpm |
最大トルク | 203N・m(20.7kg・m)/1600~5000rpm | 203N・m(20.7kg・m)/1600~5000rpm |
ステップワゴンのフルモデルチェンジは2015年とノアより1年新しいため、基本的なスペックには大差がなく、しかもステップワゴンはリアドアを横開きも可能にした『わくわくゲート』など分かりやすい訴求ポイントを持っていることが若干のリードにつながっているといえるでしょう。
広くて使いやすいスクエアなラゲージスペース
ノアが好調な販売成績を続けている理由は使いやすさを追求した基本設計にあります。後部キャビンのフロア高は360mmなので小さい子供や高齢者でも無理なく乗降ができ、スライドドアの開口幅は805mmと広いので両サイドからベビーカーを積むことも可能です。またチャイルドグリップや大型のアシストグリップがついている点も後部席に乗り込む人の安全性を考えた装備といえます。
3列目シートはタイヤハウスの上に跳ね上がるワンタッチスペースアップシートを採用しているのでラゲージスペースがスクエアになり、荷室空間を有効に使うことができます。また3列目シートを跳ね上げた時の2列目シートはスライド幅が810mmまで延長できるので、足元に大きな余裕が生まれます。7人(または8人)乗る機会がそれほど多くない家族に取っては、5ナンバーサイズの中でもっとも快適な車内空間を確保できる車種のひとつです。
低速から高速まで広い速度領域で作動する予防安全システム
安全面ではトヨタの最新予防安全装置、Toyota Safety Sense Cがグレード別に標準装備されました。これはフロントウインドウ上部に設置された単眼カメラとレーザーレーダーによって先行する車を検知、衝突の回避や軽減を行うシステムです。
Toyota Safety Sense Cは約15〜140km/hの広い速度領域で作動します。近距離での衝突危険性に関してはレーザーレーダーで、高速で移動している時の遠距離先行車は単眼カメラで検知、緊急の状況になると警告音と警告ランプでドライバーに伝え、さらに危機的状況になると強制的にブレーキを作動させます。このふたつの組み合わせは車速が高い場合ほど事故の規模が大きくなるというデータから生まれました。
ベストチョイスはガソリンエンジン搭載のGグレード
Toyota Safety Sense CはミドルグレードのG以上に標準装備されています。ベースグレードのXは約248万円、Gは約272万円なので価格差は大きくなりますが、GにはToyota Safety Sense C以外にもフルオートエアコンやクルーズコントロール、マルチインフォメーションディスプレイなどが標準装備されているので、オプション追加をしなくても十分に満足できる仕様になっています。
ノアにはハイブリッド仕様もありますが、同等の装備を持つHYBRID Gは約310万円となり、その差は40万円近くなります。HYBRID GのJC08モードは23.8km/h、ガソリンエンジン搭載のGは16.0km/hなのでカタログ値では約7km/hの違いはありますが、運転の仕方次第ではこれほどの差は生じません。近距離運転が主体の人であればガソリンエンジン搭載のGを購入した方が経済的でしょう。
筆者の主観的所見
ノアは5ナンバーミニバンのトレンドを取り入れながらも、ステップワゴンやセレナのように突出したセールスポイントを持たないオーソドックスな車種です。ただし、細部に関しては5ナンバーミニバンの蓄積された細やかな配慮のノウハウが随所に活かされており、いかにもトヨタらしい車種といえます。
後部キャビンのステップ高はノンステップバスと同じ高さなので子供や高齢者でも違和感なく乗り込むことができ、810mmのロングスライドが可能な2列目シートには上級ミニバンのアルファードに匹敵するオットマンがオプションで用意されています。車としての楽しさを追求するより家族の実用性を重視した性能は、車に対して保守的な考え方を持つ訴求対象に最適な車種といえるでしょう。