事故のケガの治療で健康保険を使わないと損をするケース

交通事故の被害者としてケガを負い治療をしなければならないとき、治療費は自動車保険から支払われるため、自分の健康保険はできれば使いたくないと思っていませんか? 特に、加害者の過失が100%だと、自分の保険を利用するのは、加害者が得をしているのではないかと嫌な気分になるのが一般的です。

しかし、たとえ自分の方に過失がなくても、健康保険を使わないと自分が損をしてしまう可能性があります。どのような場合に損をするのかを説明します。

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損をするケース

①加害者が任意保険に未加入のとき

加害者が任意保険に加入していなくても、加入者自身に治療費を負担させられます。しかし、任意保険に加入していないということは、あまりお金に余裕があるとは思えません。そのため、法律上は加害者に支払い義務があっても、補償されない可能性が高いでしょう。そのため、健康保険を利用しないと高い治療費を最悪、自己負担をしなければならない可能性があります。

ただし、少なくとも自賠責保険には加入していれば、治療費の他に慰謝料、休業補償費などを含み、上限120万円まではケガの治療費として自賠責保険から支払われます。この金額をこえないで完治できれば、任意保険に未加入でも治療費を補償してもらえます。

②ひき逃げ事故や加害者の車が盗難車、無保険車のとき

この場合、①と同様に加害者が補償できない可能性があります。この場合、自賠責保険からも補償が受けられませんが、政府保障事業によって自賠責保険と原則として同等の補償が受けられます。しかし、治療費が120万円をこえる場合、健康保険を利用するようにした方が損をしません。

③過失割合が大きい場合

交通事故で過失ゼロの場合は極めて限られたケースしかありません。交通事故では被害者側に過失があるのが一般的です。加害者になって自分もケガをした場合はもちろん、被害者でもあっても過失が30%から40%もあれば、健康保険、労災保険を使わないと損をすることになります。

・保険を使わなかった場合の手取り金額の計算例
仮に保険を使わない治療(自由診療といいます)で、治療費50万円、休業補償費などが50万円の合計100万円であったとします。過失が30%あれば、80万円(=100万円×80%)の補償を受けられます。

過失率30%なのに100万円×70%で計算しないのは、自賠責保険では傷害の治療の場合は、過失が70%未満は減額なし。70%以上100%未満は一律20%減額だからです。治療費が100万円をこえていないので、すべて自賠責保険から補償を受けることになります。このうち、50万円の治療費は自賠責保険から病院に支払われるので、補償金額の手取り額は、30万円(=80万円-50万円)となります。

・保険を利用した場合の手取り金額の計算例
一方、保険を利用すると同じ治療費が15万円(=50万円×30%)しかかかりません。自由診療では、保険が使えない高額な治療費が50万円に含まれていれば、保険で支払う治療費は15万円よりも少なくなります。

ここでは、自由診療とまったく同じ診療が保険診療でも行われたとしておきます。受け取る補償金額80万円から、病院に支払った15万円を引くと、手取り金額は65万円となります。

このケースでは、自由診療にすると35万円(=30万円-65万円)もの損が発生します。もし、治療費などの合計金額が自賠責保険で支払われる120万円を大きくこえると、こえた分は任意保険から支払われることになります。自賠責保険では、過失がどんなに大きくても80%の補償が受けられます。しかし、任意保険では過失割合がそのまま適用され、過失が50%であれば50%しか補償されません。そのため、治療などの合計金額が自賠責保険の限度額を大きくこえ、また過失率も大きくなると保険を使わないと大きな損が生じます。

なお、病院から健康保険は使えないということを言われるかもしれませんが、問題なく利用できます。病院が健康保険を使えないという理由には、高額な治療を自由にできるので病院として利益が多くなるという自己都合な理由も含まれます。しかし、自由診療にした方が良いですという言い方であれば、被害者のためを思って、よりよい治療を提供できるためにいっている可能性があります。それは、積極的に自由診療を受けることでより良い治療ができるからです。

積極的に自由診療にした方が良いケースは

補償の手取り金額が大きくすることはとても重要なことですが、それよりも重要なのはケガが元の状態まで戻ることです。軽傷の治療では自由診療と保険診療に大きな差はありません。しかし重傷の場合、もしかしたら、保険が適用されない先進医療が受けられたり、日本では保険適用が認められていない薬が使えて、保険診療よりも高度な診療を受けられる可能性があります。

そして、保険を使った治療では、元の体の状態に戻らないけれど、自由診療では100%までいかないにしても、かなり近い状態まで戻る可能性が期待できるかもしれません。最善を尽くす意味で、手取り金額にこだわらずに受けられる治療はすべて受けた方が良い可能性があります。医師の方から提案されることもあるかもしれませんが、自由診療を補償の手取り金額が減るからという理由で、しないと決めつけないことも大切です。

示談が成立したら原則、健康保険で治療はできなくなるので注意

示談が成立すると、その内容によっては、その日以降健康保険での診療が受けられなくなる可能性があります。その理由は、一般的には示談の内容には、示談金が治療費まで含んでいるからです。そして、示談とは成立の日以降は、被害者として請求する権利を放棄することを意味するからです。そのため健康保険による治療は受けられません。治療費は全額自己負担となります。交通事故で健康保険を使うということは、被害者が治療を受けたきに、本来は加害者が負担すべき治療費を立て替えて病院に支払っています。しかし、被害者が請求する権利を示談で放棄すると、健康保険を支払う健康保険組合(協会)は、立て替えて支払う必要がなくなるからです。

治療を健康保険で行うときは健康保険組合(協会)に届け出

健康保険で交通事故の治療を行うときは、健康保険組合(協会)に、「交通事故証明書」「事故発生状況報告書」など必要書類を提出して届け出なければなりません。

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