〜軽自動車からのステップアップに最適〜
ダイハツ・トール〜コンパクトトールワゴンに軽自動車のメリットを取り込む
ダイハツのトールは軽自動車からのステップアップ・ユーザーをターゲットにしたコンパクトサイズのトールワゴンです。軽でもっとも人気の高いカテゴリー、スーパーハイトワゴンをそのままコンパクトサイズへ拡大したようなフォルムとユーティリティが大きな特徴となっており、これまでのコンパクトカーにはない広い車内空間と使い勝手の良さを実現しています。
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軽自動車増税から急成長が止まった軽自動車市場
スーパーハイトワゴンの登場で右肩上がりを続けていた軽自動車販売台数は2015年の軽自動車税増税から失速を始め、2016年1〜12月の販売台数累計では前年比マイナス9%の約172.5万台まで落ち込んでいます。下落傾向にはいくつかの理由がありますが、そのひとつが軽自動車から小型車へステップアップするユーザーが増えたことです。
スーパーハイトワゴンは確かに軽自動車の常識を超えた車内空間を実現しましたが、やはり軽自動車規格内であることに変わりなく、高速道路の走行が増えたり子供が大きくなったりすると小さいボディサイズでは満足できなくなってきます。
これまでのコンパクトワゴンとは違った発想で設計
しかし軽自動車からいきなり5ナンバーサイズのミニバンへステップアップするのは運転に不安を覚える人が多くいることから、コンパクトサイズのトールがステップアップ・ユーザーの受け皿として登場しました。
コンパクトサイズのトールワゴンはこれまでも日産のキューブやトヨタのbBなどが販売されていましたが、基本的なコンセプトは2BOXハッチバックタイプの全高を上げ、個性的な車種に仕上げることに着目されており、若年層向けにデザインされていました。トールは「家族に絶妙 新サイズ」というトールのキャッチフレーズからも分かるように設計の段階から軽スーパーハイトワゴン同様に家族の利便性を中心に開発されていることが大きな特徴です。
随所に見られる利便性と安全性の工夫
フロアは地上から366mmと低床に設計されており、後席ステップランプを装備して夜間でも足元の明るさを確保、またBピラーに取り付けられた大型乗降用アシストグリップは大人から子供まで握りやすい太さと高さにするなど乗降性をスムーズにするための装備が充実しています。
両側スライドドアは電子カードキーだけでなく運転席スイッチやインナーハンドル、ドアアウターハンドルそれぞれのスイッチで電動させることができ、挟み込み防止機能や車内からドアを開けられないようにするチャイルドプロテクションを装備するなど利便性と安全性の工夫が随所に見られます。
スズキのソリオと主なスペックを比較
コンパクトサイズの家族向けトールワゴンはスズキのソリオが先行して市場を開拓、好調な販売台数を維持しています。ここではソリオと主なスペックの比較を行います。
トール G”SA Ⅱ” | ソリオ HYBRID MZ | |
全長×全幅×全高(mm) | 3700×1670×1735 | 3710×1625×1745 |
客室内寸法 | 2180×1480×1355 | 2515×1420×1360 |
ホイールベース | 2490mm | 2480mm |
車両重量 | 1070kg | 950kg |
エンジン排気量 | 996cc | 1242cc |
最高出力 | 51kW(69PS)/6000rpm | 67kW(91PS)/6000rpm |
最大トルク | 92N・m(9.4kg・m)/4400rpm | 118N・m(12.0kg・m)/4400rpm |
JC08モード | 24.6.km/L | 27.8km/L |
車両本体価格 | 1,684,800円 | 1,841,400円 |
スペック上の大きな違いはエンジン排気量による最大出力と最大トルクです。ソリオが1.2Lエンジンを搭載している分、走行性能に余裕があると言えます。またソリオはミドルグレードでモーターがエンジンをアシストするマイルドハイブリッドシステム、ハイグレードではモーターだけの走行が可能なハイブリッドシステムを搭載しているため、燃費効率でも上回っています。
ただし、スズキは新機能搭載の予防安全装置ディアルカメラブレーキサポートを全グレードでオプション扱いしていることに対して、トールはグレード別に標準装備しています。走行性能を問わず予防安全装置の有無や新車販売価格の低さで選ぶならトールに優位性があるといえるでしょう。
軽自動車からステップアップを考えている人に最適な車種
トールのインパネ回りは水平基調でメーターフードを下げ、エアコンのアウトレットをダッシュボード上部に設置したことから運転席からの視認性が広がり、左右の死角が軽減されています。最小回転半径が4.6mと小さく取り回しがラクなことも軽自動車ステップアップ・ユーザーには嬉しいポイントのひとつといえます。
ラゲージルーム床面に装備されているデッキボードは多彩な利便性を発揮します。通常時は床面をフラットにしていますが、前方に跳ね上げると床下にアンダーボックスが表れて背の高い荷物を収容することができます。また自転車など車内が汚れやすく大きな荷物を搭載したい時はリアシート背もたれを前倒させてフラットなラゲージルームを作り、その上にデッキボード裏側の防汚シートを広げれば車内を汚すこともありません。
また前席ヘッドレストを外して背もたれを後倒させ、後席をリクライニングさせれば車内にフルフラットな空間を作ることもできます。5ナンバーサイズのミニバンには不安を覚える女性や、ミニバンほどの空間を必要としない家族には最適のサイズとなる車種です。
筆者の主観的所見
ダイハツは2006年10月、他社に先駆けて衝突被害軽減ブレーキシステムのスマートアシストを開発しました。このシステムは年々改良が加えられており、2016年11月にはこれまでのレーザーレーダーと単眼カメラで構成していたシステムを廃止してフロントガラス上部左右に2個のカメラを装備するデュアルカメラシステムを採用、現在はスマートアシストⅢ(SAⅢ)に進化しています。
デュアルカメラによる予防安全装置は人間の目と同じく前方障害物を3次元で確認できるため、先行車両や動かない障害物だけでなく歩行者や自転車も認識でき、衝突軽減システムを作動させることができます。ダイハツ最先端となるSAⅢは軽スーパーハイトワゴンのタントに初搭載されましたが、残念ながらトールに搭載されているのは前期システムのSAⅡです。
SAⅡは低速域衝突回避ブレーキや誤発進抑制を後方にも備えるなど予防安全装置としては優れているものの、歩行者や自転車を検知することができません。コンパクトなトールワゴンとして注目を集めているだけに、予防安全装置の前期タイプ搭載は残念な点といえます。オプション装着とはいえ、スズキのソリオはすでにデュアルカメラの予防安全装置を用意しており、セールスポイントの観点からも早期のSAⅢ搭載が望まれるところです。