〜ダイハツと共同開発されたトヨタの車〜
トヨタ・パッソ〜軽自動車からのステップアップに最適なクルマ
トヨタのパッソは2BOXハッチバックのコンパクトカーです。トヨタの傘下企業であるダイハツが開発・製造しており、ブーンが姉妹車となるバッジエンジニアリングによって販売されているOEM車で、軽自動車のノウハウが随所に活かされています。
女性が使いやすいように設計した初代
初代の登場は2004年で、企画とマーケティングをトヨタが担当し、設計や開発・製造をダイハツが請け負いました。コンパクトカーを開発するに当たり、トヨタにはヴィッツがあることから差異化に重点が置かれていました。コラムシフトや足踏み式パーキングブレーキを採用して足元に余裕を作り出し、女性がバッグを収納するためのスペースを用意するなど女性ユーザーを強く意識したデザインになっています。
コンパクトカーでも全幅は5ナンバー枠ギリギリとなる1695mmを採用する中で、パッソは1665mmとやや狭いため、運転を得意としない女性でも軽快に走れることが特徴のひとつで、最小回転半径は4.3mと軽自動車並の数値を記録しました。発売当初、トヨタの月間販売台数目標は7,000台でしたが、予想を大きく超える約25,000台の受注があり、エントリーモデルとしての成功を果たしました。
2016年にフルモデルチェンジを行なった3代目現行車は2代目の丸みを帯びたボディシルエットを引き継いでいますが、キャビンとボンネットを明確に分けた2BOXタイプを強調するデザインになっています。シフトレバーをセンタークラスターに移動して足元に余裕を生み出し、車内空間を広く取れる前席ベンチシートを採用しているところが、いかにも軽自動車デザインのノウハウを活かしているポイントといえるでしょう。
パッソとマーチの主なスペックを比較
コンパクトカーで全幅がパッソと同じく1665mmなのは現在、日産のマーチしかありません。どちらもエントリーモデルとして女性に人気のある車種なので、ここでは両車の主なスペックを比較します。
パッソ(X”S”グレード) | マーチ(Xグレード) | |
全長×全幅×全高(mm) | 3650×1665×1525 | 3825×1665×1515 |
客室内寸法 | 1975×1420×1270 | 1905×1370×1270 |
車両重量 | 910kg | 950kg |
JC08モード | 28.0km/L | 23.0km/L |
最高出力 | 51kW(69PS)/6000rpm | 58kW(79PS)/6000rpm |
最大トルク | 92N・m(9.4kg・m)/4400rpm | 106N・m(10.8kg・m)/4400rpm |
最小回転半径 | 4.6m | 4.5m |
最高出力、最大トルクともにマーチが上回っていますが、これはエンジン排気量がマーチの1.2Lに対してパッソは1.0Lに因るものです。マーチの現行車はフルモデルチェンジが2010年と古いため、スペックだけでも各項目でパッソに劣っている部分が見られます。中でも最大のウイークポイントとなるのが車内長で、ボディ全体の長さはマーチが上回っているのに客室内全長はパッソの方が70mmも長いため、乗員の快適性ではパッソに劣ります。
また燃費効率を示すJC08モードではパッソが大きく差をつけました。唯一、最小回転半径ではマーチが僅かにリードを示しています。パッソの初代が4.3mと軽自動車並の小回りを見せていたことを考えると、やや残念な点といえます。
ミライースの燃費効率システムを投入
パッソのJC08モード値は2016年9月現在、ガソリンエンジン搭載車の中でNO.1を保持しています。搭載されている1KR-FE型はトヨタの中で初となる直列3気筒エンジンでパッソだけに使用されています(以前はIQにも搭載されていました)。製造はダイハツが受け持っており、パッソ搭載に当ってはダイハツの低燃費型2BOXハッチバック、ミライースで培った技術を投入したことにより、高いJC08モード値を実現しました。
パッソに採用されたダイハツの技術は燃費効率だけに留まらず、高い評価を受けている予防安全装置、スマートアシストⅡ(スマアシⅡ)も全グレードに設定されています。進化を続けるスマアシⅡは前方のレーザーレーダーと単眼カメラ、後方のソナーセンサーによって前方の車だけでなく障害物や人間も検知して衝突を回避または軽減、さらにアクセルとブレーキの踏み間違いによる後方発進の事故を軽減します。
軽自動車からのステップアップや初心者に最適の車種
インパネはスピードメーターをセンターにレイアウト、その左側にマルチインフォメーションディスプレイを配置しただけのシンプルなデザインで、インテリアカラーもアイボリーとブラックを組み合わせたスタンダードな色調を採用、飾り気のない車内は女性が好みそうな雰囲気をまったく感じることはできませんが、シンプルに徹している分、初心者や運転があまり得意ではない人でも直感的に操作できる利便性を備えています。
とくに軽自動車からステップアップしてパッソに乗る人には違和感がほとんどない、と言えるでしょう。また運転免許証を取得して初めて車を購入する、という人にも最適な車種です。
筆者の主観的所見
パッソは都市部を運転している限り、取り回しがラクで燃費効率も良く、後部席を倒すと広い荷室空間ができるシティヴィークルといえます。軽自動車からのステップアップや初心者には最適の車種ですが、普通車からダウンサイジングの目的で乗り換えるには車内のチープな装飾に抵抗を覚えるでしょう。
トヨタもダウンサイジングによる乗り換えユーザーは想定しており、そのための派生車種としてパッソMODAを用意しています。基本的なデザインは変わりませんが、エクステリアではオートレベリング機能がついたティアドロップ型のヘッドライトとアイラインのように光るLEDクリアランスランプを採用、フロントグリルをサテン調メッキと艶のあるブラック塗装にして高級感を打ち出しています。
インテリアでもインパネにはタコメーターを追加して2眼とし、発光が鮮やかなオプティトロンメーターを採用した他、センタークラスターは黒の艶消し、エアコン吹き出し口やディスプレイパネルの周囲にはメタリックの赤で加飾を行い、チープさが薄まっています。MODAであれば男性やダウンサイジングを図る熟年者でも違和感を持たずに所有することができるでしょう。