〜CLARITY FUEL CELL〜

ホンダ・クラリティ・フューエルセル〜車内の快適性を重視したFCV

クラリティ・フューエルセルはトヨタMIRAIに次いでホンダが販売している水素燃料電池車(FCV)です。現在はFCV推進に協力している自治体や企業を中心にリースを行なっていますが、2017年度にはリースからフィードバックした技術を元に改良を加え、個人販売も行う予定となっています。

FCVに早期から取り組んでいたホンダ

ホンダはFCVに早くから取り組んでおり、1999年からは1年ごとにFCVの実験車両を公開しています。最初の市販車は2002年のFCXで、日本とアメリカに約20台がリースされました。全長は4165mm、全幅1760mm、全高1645mmのコンパクトサイズで、モータートルクは272N・m、最高速度は150km/Lを記録するなど初期モデルから高性能を発揮していました。なお、当時の高圧水素タンクは35MPa(350気圧)で設計されていましたが、現行車は70MPaに変更、トヨタMIRAIと共通にして水素スタンドの普及に貢献しています。

現行車の原型となったのが前期モデルのFCXクラリティです。全長は4845mm、全幅1875mm、全高1470mmと高級セダンのボディサイズになり、1kgの水素で一般道路・高速道路を合わせても約115.9kmの航続走行が可能になっています。2009〜2010年の箱根駅伝で先行車を務めたので見たことがある人も多いでしょう。リース販売台数も増え、世界中で約200台が契約されました。

ステラのMODEL Sと主なスペックを比較

ホンダはクラリティ・フューエル セルの販売網を国内だけでなく北米でも広げたい意向があります。初披露を第44回東京モーターショー2015で行なった後、2016年にはニューヨークモーターショー16で米国仕様を公開していることがその証となりますが、現在、米国はエンジンのダウンサイジング化に次ぐ省エネ対策として電気自動車(EV)を推進しており、FCVに対しては積極的とはいえません。ここではEVで成功したテスラモーターズのセダン、MODEL S60Dと主なスペックの比較を行います。なお、MIRAIとの主なスペック比較はMIRAIの項を参照してください。

クラリティ フューエル セルMODEL S60D
全長×全幅×全高(mm)4915×18754970×1950
ホイールベース2750mm2960mm
車両重量1890kg2100kg
モーターパワー130kW(177PS)
300N・m(30.6kg・m)
193kW(262PS)
525N・m(53.5kg・m)
一充填走行距離約750km約450km
車両本体価格7,660,000円9,160,000円

ボディサイズがまさに北米仕様のテスラMODEL Sはモーターパワーのトルクが自然吸気エンジンの排気量5.0L並で、100km/hまでの加速はわずか5.4秒で達することができるという、欧州スポーツカーをしのぐ走行性能を持っています。また航続距離は60Sで約450kmとこれだけでも日本のEVをはるかに凌駕、さらにMODEL Sの上級車になると約570kmまで伸びます。

クラリティ・フューエル セルはボディサイズが国産の高級セダン並に抑えられており、航続可能距離こそテスラを大きく上回りますが、走行性能では目立ったところがなく、圧縮水素を燃料に使っているという以外に話題性がありません。アウディにも似たエクステリアを持つMODEL Sに対してボディフォルムの洗練さに欠けるクラリティ・フューエル セルが北米で販路を広げるのは、現状ではかなり厳しいと言えるでしょう。

パワートレインをボンネット内にすべて収納

FCVとしての将来性はともかく早期からFCVに取り組んでいただけあって、そのコンポーネントはトヨタMIRAIより優れている面もあります。FCVは主に高圧水素タンク、水素と酸素を化学反応させて電力を発生させるFCスタック、駆動用モーターユニットの3つで構成されていることから、現状ではどうしても車内空間が狭くなってしまいます。

MIRAIは車内空間の狭さを敢えて4名乗車に設計して割り切りましたが、クラリティ・フューエル セルはFCスタックとその周辺機器をコンパクト化させ、駆動用モーターユニットと結合させてボンネット内に収めました。その結果、車内空間は快適性が確保され、5名乗車を可能にしています。ただし前後2個の高圧水素タンクはFCスタックがボンネット内部に設置されたため前方容量は24Lと少なく、その分、後方タンクが117Lと大きくなっており、トランクは9.5インチのゴルフバッグが3個入るだけの容量しかありません。

環境性能と車内快適性を求める人に最適な車種

インテリアは700万円超に相応しい質感が与えられています。室内色はボディカラーとコーディネートされており、ホワイトオーキッド・パールやプレミアムブリリアントガーネット・メタリックにはプラチナムグレー、クリスタルブラック・パールにはブラックが採用されています。

FCVはモーターで走行するので静粛性に優れている分、風切音やタイヤノイズが耳障りになります。これらの音も車内に侵入させないためにウインドウ類には遮音機能、ドア類には防音・吸音材を効果的に配置、高速道路を走行しても車内は静寂な空間を確保しています。また外気の排気ガスを検知して自動的に内気循環へ切り替えるエアクオリティセンサーを始め、各種の空気清浄技術が取り入れられているので、車内をつねに快適な環境にしておくことができます。

クラリティ・フューエル セルは官公庁や企業へのリース販売だけですが、2017年には個人にも販売する予定です。圧縮水素を充填するためのスタンドが身近にあるという条件が付加されるものの、車内の快適性や環境性能を強く意識する人には最適な車種となります。クルマ社会の将来は排出ガスをゼロにする方針(ゼロ・エミッション)へ向かっていることを考えれば、水素という燃料を使うことの是非はあっても未来志向の車種であることは間違いありません。

筆者の主観的所見

FCVが普及する要因としては、車両本体価格が下がることと同時に水素スタンドの充実が上げられます。しかし水素ステーションは2016年末の段階で約90基程度しかなく、また2車種しか販売されていないFCVはどちらも700万超となっています。

EVは発売当初、充電スタンドの不足から普及は難しいとされていましたが、現在は全国で1万基を超えるまで設置されており、さらに個人やメーカー設置を含めると4万基に達するというデータもあります。テスラは急速充電ステーションを日本各地に設置、テスラ・オーナーは無料で利用できるシステムを構築しています。またリーフを販売している日産も購入者に対して利用無料プランを提供しています。

FCVの量産化が先か、それとも水素ステーションの充実が先か、という因果性のジレンマはありますが、少なくともEVメーカーのようにインフラ整備をメーカーが率先しない限り、FCVはEVの勢力に押され続ける可能性があります。ユーザーにとってゼロ・エミッションは水素でも電気でも変わりなく、より便利な方を選択するだけです。

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