〜スカンジナビア・デザイン〜
ボルボXC90〜北欧デザインの粋とボルボ伝統の安全性を集約
ボルボのXC90は3列シートを持つフルサイズのクロスオーバーSUVです。世界中でその実力が高く評価されており、ドイツではレッドドット賞のプロダクトデザイン賞やインテリア・デザイン・オブ・ザ・イヤー賞を獲得、アメリカではモーター・トレンドの2016SUVオブ・ザ・イヤーを受賞しており、日本でも2017年のRJCカーオブザイヤーインポートで一位に輝くなど、すべて合わせると50以上の各賞を受賞しています。
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フォード傘下から離れて活気を取り戻したボルボ
XC90を製造販売しているボルボ・カーズは現在、中国の浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)の傘下企業となっています。1998年、スウェーデンのコングロマリットであるボルボから乗用車部門だけが切り離され、フォードに売却された時はジャガーやランドローバーなどと同じくプレミアム・オートモーティブ・グループに属していましたが、フォードが経営危機に陥ったことから2010年に浙江吉利控股集団へ売却されました。ちなみにフォードがボルボから買収した時の価格は約64億ドル、売却した時は約18億ドルと言われています。
親会社の浙江吉利控股集団は資本出資という形だけで、車種開発に関してはボルボ・カーズが全面的に行っており、親会社の影響を一切受けていません。フォード傘下の時代はヒット車種に恵まれなかったボルボですが、浙江吉利控股集団傘下になってからの開発ピッチは目覚ましく、XC90を始めとしてコンパクトサイズのV40やステーションワゴンのV60など人気車種を送り出しています。
浙江吉利控股集団は安い買い物をした、と言ったところでしょう。なお、フォードはボルボ・カーズとの資本提携は解消しましたが、ボルボのネーミングはボルボとフォードが共同所有しているボルボ・トレードマーク・ホールディングが所有しており、ボルボの車名は許諾されて使用するというややこしい話になっています。
アウディのQ7と主なスペックを比較
XC90が世界中で高い評価を得ているのは、ボルボのフラッグシップモデルに相応しい車種とするために、約1兆3000億円かけて新型のプラットフォームから開発したことが結果に結びついています。ここではXC90と同じく3列シートを持つアウディのクロスオーバーSUV、Q7 と主なスペックを比較します。
XC90 T5 AWD Momentum | Q7 2.0 TFSI | |
全長×全幅×全高(mm) | 4950×1930×1775 | 5070×1970×1735 |
ホイールベース | 2985mm | 2995mm |
車両重量 | 2060kg | 2000kg |
駆動方式 | 4輪駆動(AWD) | 4輪駆動(quattro) |
最高出力 | 187kW(254PS)/5500rpm | 185kW(252PS)/6400rpm |
最大トルク | 350N・m(35.7kg・m)/1500〜4800rpm | 243N・m(24.8kg・m)/5000〜6000rpm |
トランスミッション | 電子制御8速AT | 電子制御8速AT |
JC08モード | 12.8km/L | 12.6km/L |
車両本体価格 | 7,740,000円 | 8,040,000円 |
スペックを見る限り、ボディサイズでQ7がやや上回っている以外、大きな差は見られません。3列シートを持つフルサイズSUVの標準的なスペックということでしょう。両車ともにエンジンは直列4気筒でインタークーラー付きターボチャージャーを装着するというダウンサイジングを図っており、フルサイズSUVとしては高燃費も実現しています。
ただし、両車ともにハイスペックグレードを設定しており、Q7 3.0 TFSIはV型6気筒3.0Lにスーパーチャージャーを装着、245kW(333PS)/5500~6000rpmの最高出力と440N・m/2900~5300rpmの最大トルクを発揮、XC90のT6 Inscriptionは直列4気筒2.0Lでありながらターボチャージャーにスーパーチャージャーを加え、235kW(320PS)/5700rpmの最高出力と400N・m/2200~5400rpmの最大トルクを発揮します。なお、XC90には駆動用モーターを搭載したプラグインハイブリッド車も設定されています。
ウッドパネルで加飾されたラグジュアリーな車内空間
スカンジナビア・デザインの家具は世界的に有名です。雪に閉ざされた冬、室内で長時間使っていても快適に過ごせるようにデザインされており、また室内を明るくするためにカラフルな色調と飽きのこないシンプルな形状にしていることが大きな特徴です。XC90にはその特徴がふんだんに盛り込まれています。
インテリアのイメージカラーはホワイトを基調とし、インパネ回りには光を反射しないブラックを配置、モノトーンのシックな雰囲気の中にウッドパネルを加飾してナチュラルで和みのある空間を演出しています。ラグジュアリーなSUVらしく車内装備は充実していますが、やたらとゴージャスにならないところがスカンジナビア・デザインといえるでしょう。
3列シートは欲しいけれど自己主張もしたい人に最適の車種
また、一般的にフルサイズのSUVであってもキャビン部が圧迫されることから3列目シートはエマージェンシー的な役割であることが多いのですが、XC90は身長170cmの人が座っても足元に余裕があり、後部席に行くほど座面が高くなるシアターレイアウトを採用しているので圧迫感がなく、十分な実用性を備えていることも特筆すべき点です。
XC90は国内の道路事情を考えるとやや大きめのボディとなり、加えてクロスオーバーSUV仕様なのでニーズは少ないと言えるでしょう。それでも国産フルサイズ3列シートミニバンの利便性や高級感は欲しいけれど、スタイリングや走行性能に不満を覚え、センスの自己主張をしたい人には最適の車種となります。国内でフルサイズのクロスオーバーSUVといえばトヨタのランクルまたはレクサスのLXが圧倒的な人気を誇っていますが、国内で滅多に走っていないXC90に乗っているというだけで目立った存在になることは間違いありません。
筆者の主観的所見
かつて、ボルボには240シリーズという名車がありました。1974年に発売され、1993年の販売終了まで累計約280万台を生産したロングセラーカーで、その魅力はスクエアな3BOX(ステーションワゴンは2BOX)と当時、革新的な安全設計を持っていたことが上げられます。
とくにボディの衝撃吸収ゾーンを設けるために前輪サスペンションをストラット式に、ステアリングはラック&ピニオン方式に変更しました。これは現在、どのメーカーも採用している構造です。
以後、ボルボは安全性の高い車種として評価され、不遇のフォード時代でも安全面に関しては世界でもトップクラスのクオリティを保っていました。この伝統はXC90にも受け継がれており、搭載されている予防安全装置は最先端機能がほぼ備わっています。
加えて衝撃吸収ボディはコンパクトカーの高さに合わせてやや低い位置に設計、正面衝突を起こした時は火薬点火装置によって一瞬のうちにブレーキペダルをリリース、右足を保護する機能もあります。安全装置を技術だけに頼るのではなく、人間の視点から考えるところがボルボの安全設計に対する姿勢の優れた点です。
ちなみに3点式シートベルトはボルボが世界で初めて採用しましたが、その技術に対して特許を取得せず、どの自動車メーカーも使えるように公開しました。日本の自動車メーカーが本当に世界で認められるようになるのは、このような企業姿勢があってからのことでしょう。