〜スタンダードなクーペスタイルのセダン〜

VWパサート〜フラッグシップモデルとしてのデザイン性と走行性能を備える

パサートは欧州Dセグメントにカテゴライズされるセダンで、フォルクスワーゲンのフラッグシップモデルとなります。質実剛健を主義とするドイツ車らしい仕上がりで、機能性に関わらないラグジュアリーな装備は少ないことが特徴です。

グレードは経済性と安全性を両立させた比較的安価なベーシックモデルから走行性能を特化させたタイプまであり、機能性重視で構成されています。

メーカー車両情報・フォルクスワーゲン パサート

6代目からようやく安定した人気を獲得

パサートはゴルフより1年早い1973年、タイプ1(通称ビートル)の上級車種として販売されました。ただしコストダウンの目的からアウディ80との共用部品が多くなり、エクステリアをファストバックにして差異化を図るものの先端的な技術が投入されたわけではなく、フォルクスワーゲンの中核モデルは翌年に登場するゴルフに移ります。

パサートはその後もアウディをベースにしたモデルや空力性能に特化したボディ形状、グリルレスのフロントマスクなどモデルチェンジの度に先代モデルからの継承が少なく、パサートとしての統一感がないまま販売が続けられていましたが、6代目からはゴルフとプラットフォームを共有化、流麗なクーペラインを持つコンサバティブなセダンとしてのデザインを採用してから人気が高まり、現行車となる8代目はゴルフと並ぶ中核モデルに成長しています。

トヨタのクラウンと主なスペックを比較

自動車販売台数では世界の市場でフォルクスワーゲンとトヨタが激しく競っており、トヨタが暦年実績(1〜12月)で2015年度まで4年連続首位を維持すれば2016年度上半期はフォルクスワーゲンが巻き返して首位を奪取しました。ここではパサートと同じくトヨタのフラッグシップであるクラウンと主なスペックの比較を行います。

パサート TSI Highlineクラウン2.5ロイヤルサルーン
全長×全幅×全高(mm)4785×1830×14704895×1800×1460
ホイールベース2790mm2850mm
車両重量1460kg1560kg
エンジン排気量1394cc2499cc
最高出力110kW(150PS)/5000〜6000rpm149kW(203PS)/6400rpm
最大トルク250N・m(25.5kg・m)/1500〜3500rpm243N・m(24.8kg・m)/4800rpm
トランスミッション電子制御7速DSG電子制御6速AT
JC08モード20.4km/L11.4km/L
車両本体価格4,439,000円4,476,600円

両車のスペック比較で大きく異なっているのがエンジン性能です。パサートは1.4Lの小排気量直列4気筒にインタークーラー付きターボチャージャーを装着、最高出力は110kW(150PS)とやや低いものの最大トルクはクラウンを上回っており、そのパワーをツインクラッチの7速DSGで走行状態に合わせて最適化するという欧州の主流であるダウンサイジング化を実現、JC08モードは20.4km/Lと高い数値を記録しています。

対してクラウンは現在の車種では珍しく2.5Lの自然吸気型直列6気筒を採用しており、最高出力を高めるチューニングが施されています。やや時代遅れの感もありますが、これはクラウンのオーナーが「クラウンは直列6気筒でなければクラウンと呼ばない」という保守的な人が多いことから伝統となっている直6を使い続けている背景があります。

なお、クラウンには経済性に優れたハイブリッド車も用意されており、JC08モードは23.2km/Lを記録しています。ハイブリッド専用の直列4気筒を搭載した時は社内からも反対意見が出た、とクラウンハイブリッド車の開発担当者が語っていたこともクラウンの保守性を物語っています。

十分な快適性を保つ車内装備

パサートのインテリアはクラウンのように木目調パネルといったラグジュアリーな加飾はありませんが、フラッグシップモデルに相応しい上質なセンスでまとまられています。ブラックとシルバーによってデザインされた車内のインパネは運転席から助手席までラジエターグリルを彷彿させる水平基調のシルバーモールが配置されており、エアベントを一体化させてエクステリアとインテリアの統一感を出しています。

運転席と助手席にはベンチレーション機能を設けて季節を問わず快適な環境を作り、後部席には暑い日差しから乗員を守る電動サンブラインドがリアウインドウに設置されています。また運転席には長時間の運転による疲労を削減するシートマッサージ機能がついているのもドライバーには嬉しいポイントといえるでしょう。

国産車にはないパッシブセーフティ機能を搭載

予防安全装置に力を注いでいるのもパサートの特徴のひとつです。フロントの単眼カメラとレーダーによるシステムは歩行者にも対応した衝突回避支援機能を始め、車線を逸脱しないためのレーンキープアシストや左右後方約70m範囲のクルマを検知して安全に車線変更ができるレーンチェンジアシストシステムなど国産の先進的な予防安全機能をほぼ網羅しており、さらに乗員の安全を守るパッシブセーフティが充実しています。

前方車両へ追突した場合、速度が落ち切らずに反対車線へ飛び出し、対向車との二重事故になるケースがあります。これを回避支援するのがストコリジョンブレーキシステムで、衝突した際に作動するエアバッグをセンサーが検知、自動的に速度を10km/h以下に落として反対車線への飛び出しを防ぎます。

プロアクティブ・オキュパント・プロテクションはクルマの挙動が極端な急制動やオーバーステア、またアンダーステアを起こすとセンサーは事故の可能性ありと判断、シートベルトのテンションを高めると同時にウインドウを閉じ、エアバッグ効果を最大限に発揮できる状況を作り出します。どちらも国産車のパッシブセーフティにはない機能で、総合的な安全性能に対するドイツ車の意識の高さが伝わってきます。

Dセグメントの上質なシンプルさが欲しい人に最適の車種

欧州Dセグメントはメルセデス・ベンツのCクラスやBMWの3シリーズなどがカテゴライズされており、アクの強い車種がひしめいています。その中でパサートは流麗なルーフラインを持つ比較的スタンダードなクーペスタイルのセダンのポジションを保っています。Dセグメントのボディサイズは欲しいけれど上質なシンプルさが欲しい、という人には最適な車種となり、十分なパフォーマンスを発揮するでしょう。

筆者の主観的所見

現在、国内で販売されているパサートの高燃費仕様はGTEのプラグインハイブリッド車だけで、欧州では人気のあるクリーンディーゼル仕様は正規輸入されていません。2015年、フォルクスワーゲンはアメリカの政府環境保護局の指摘からディフィート・デバイスと呼ばれるディーゼルエンジンの不正プログラムが発覚しました。

この不正プログラムが適用されている車種は世界中で1100万台にも上ることからフォルクスワーゲンは大打撃を受け、日本ではクリーンディーゼル仕様を販売していないにも関わらず、約48%の売上減を記録しました。この不正プログラムの影響で国内ではパサートを含むクリーンディーゼル車が販売されなくなっています。

風評に弱い日本人気質を考えると販売中止は無理のないことでもありますが、パサートの欧州仕様クリーンディーゼルは燃費効率と走行性能を両立させた車種として高い評価を受けています。そろそろ、フォルクスワーゲンも日本でのクリーンディーゼル車販売を考えてもいい時期ではないでしょうか?

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