〜手書きで描いたような緩いデザイン〜

ルノー・ルーテシアZEN0.9L〜日本では不人気だが欧州では圧倒的な人気

ルノーのルーテシアは欧州Bセグメントにカテゴライズされるコンパクトタイプの2BOXハッチバックカーです。グレード設定は搭載しているエンジンや装備品ではなく、走行性能や経済性といったクルマの特性によって分けられており、中でも日常的に使いやすいという理由から人気を集めているのが直列3気筒900ccエンジンを搭載したZEN0.9Lです。


最新型直列3気筒エンジンの先駆け的存在となったZEN0.9L

直列3気筒エンジンのメリットは直列4気筒エンジンに比べてサイズをコンパクトにできることに加え、1気筒当りの排気量が大きくなるため高トルクと低燃費が得られ、気筒数が少ないので冷却効果が高くパワーの機械損失も低く抑えることができます。現在、日本の軽自動車はすべて直列3気筒が搭載されています。

これらのメリットの反面、排気量を大きくすると爆発回数が直列4気筒に比べて少ないため、トルク変動が大きくなると同時に二次振動が強くなり、騒音も高くなるというデメリットが発生します。かつて、日本のコンパクトカーの多くは直列3気筒1.0Lのエンジンを搭載していましたが、ボディサイズの拡大と同時に排気量も増え、直列4気筒に移行しました。

ルーテシアが排気量の小さい場合に効果的な直列3気筒を、日本では3ナンバークラスとなる欧州Bセグメントのボディサイズに搭載した背景には経済性と環境性を重視したダウンサイジング化と、小さい排気量でも過給器で高トルクを得られるようになった技術革新があります。普通車における直列3気筒は再び注目されており、BMWは1シリーズに直列3気筒1.5Lツインパワー・ターボ仕様を追加、またトヨタもダイハツが開発した熱効率の良い直列3気筒1.0LのKR型を新型ヴィッツやパッソに搭載しています。ルーテシアZEN0.9Lはこれらの車種の先駆け的存在といえるでしょう。

プジョー208と主なスペックを比較

現在、3ナンバーサイズのボディに0.9Lエンジンを搭載している車種はルーテシアZEN0.9L以外にありません。ここではルーテシアと同じくフランスの大衆車として人気が高いプジョー208 Style 5MTと主なスペックを比較します。搭載されているPureTech直列3気筒エンジンはインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー2015の1.0〜1.4L部門で最優秀賞を獲得、5MTはその自然吸気タイプとなります。

ルーテシアZEN0.9L208 Style 5MT
全長×全幅×全高(mm)4095×1750×14453975×1740×1470
ホイールベース2600mm2540mm
車両重量1130kg1140kg
エンジン排気量897cc1199cc
最高出力66kW/5250rpm60kW/5750rpm
最大トルク135N・m(13.8kg・m)/2500rpm118N・m/2750rpm
トランスミッション5MT5MT
車両本体価格2,080,000円1,990,000円

両車とも、合理主義が強いフランスで人気の高い車種だけにスタンダードモデルとしてのスペックは必要十分なパワーだけを確保しただけで、国産車やドイツ車のスペックに慣れているとパワーレスのように感じられます。逆に言えば日常生活のカーライフの中で、信号と同時にダッシュするようなパワーは不必要という考え方がフランス車の特徴でしょう。スペックには表れない、石畳の細かな突き上げを吸収する猫足サスペンションや細い路地をスムーズに曲がれる旋回性能、週末には休暇を楽しむための荷物を乗せる利便性などが重要視されています。

なお、不必要ではあるけれどハイパワーが欲しいという人のためにどちらのメーカーもきちんとスポーティモデルを用意しており、ルーテシアにはR.S.、208にはGTiが設定されています。両車とも、単純にパワーアップを図っただけでなくサスペンションからブレーキ性能まで、確実に曲がってきちんと止まるチューニングが施されています。F-1やラリーに参加し続ける企業が作ったスポーティカーであることを実感できる完成度です。

流麗なフォルムは上級グレードと共通

一般的な車種ではグレード設定においてエンジン排気量が小さく低価格のタイプはベースモデルとして扱われ、エクステリアやインテリアは加飾が施されず上級グレードに比べると貧弱に見えることが多いのですが、ZEN0.9Lは上級モデルと変わらない装備であることに加え、専用のアルミホイールを設定するなどルーテシアとしての品格を保っています。このグレードによる差異化がないことも人気車種となっている一因でしょう。

エクステリアは人体の造形美からインスパイアされたという官能的な局面構成を持ち、5ドアハッチバックの利便性を持ちながらもリアサイドガラス後方を切り上げてシャープなクーペのフォルムにデザインされています。インテリアはシックなブラックで統一、メーターパメルは左にタコメーター、右に燃料計、その中央にデジタル表示のスピードメーターを配置しただけのシンプルなレイアウトですが、それぞれを非対称の円形デザインにしているところからフランス車のセンスが感じられます。

5MTだけでなくデュアルクラッチのAT仕様も用意

ZENというネーミングはルノーの公式によると、「日本の禅」が持つ精神は機能をシンプルに削ぎ落としたルーテシアと合致することから採用した、とありますが、禅は日本発祥ではないので日本人としてはやや微妙な気分になりますが、それでも質素な生活様式で風雅を楽しむというのは、かつて日本の伝統でもありました。これはフランスの合理主義とも通ずる部分があります。その意味において、シンプルでありながらも優雅なフォルムを持つZEN0.9Lは見事に合理主義を体現した車種といえるでしょう。

ZEN0.9Lには5MTしか設定されていませんが、5MTは苦手という人やAT限定免許所持者にはZEN1.2Lがあります。エンジンは直列3気筒ではなく直列4気筒のターボチャージャー付きで、トランスミッションは2ペダルの6速デュアルクラッチを設定しています。AT仕様でもZENのフレンチ・エッセンスを十分に味わうことができます。

筆者の主観的所見

ルーテシアのボディサイズはCセグメントクラスですが、排気量が小さいことから約40車種あり、欧州最大規模の市場といわれるBセグメントにカテゴライズされています。この激戦区でルーテシアは年間第2位を獲得、また欧州すべての車種販売実績でもフォルクスワーゲンのゴルフやフォードのフィエスタに次いで第3位を記録しています。

欧州では圧倒的な人気を持つルーテシアも、日本ではなぜか人気がありません。かつてフランス車はイタリア車と並んで故障発生率の多いクルマとして認識され、それが今でも都市伝説として継承されていることが理由のひとつでしょう。

現在、ルノーは日産とアライアンス関係にあることから日本式品質管理が浸透しており、フランス車ではあっても日本車と同じように故障発生率が少なく、日本車以上にアフターサービスが用意されています。個性的な車種がない、と国産車に嘆くのであれば、勇気を出してZEN0.9Lの購入をお勧めします。

定規とコンパスでデザインしたような整然としたドイツ車から、手書きで描いたような緩いデザインでスイッチの少ないZEN0.9Lに乗ると「ホッ」と和んだ気分になるのは、多分、筆者だけではないでしょう。

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