〜めずらしい後輪駆動の軽ワゴン〜
スズキ・エブリイワゴン〜ライバルを圧倒する車内空間
スズキのエブリイワゴンは商用バンのエブリイを乗用ワゴンに改造した軽セミ1BOXカーです。エンジンを座席の下にレイアウトして後輪を駆動させることが最大の特徴で、広い車内空間とナチュラルな運転感覚がセールスポイントとなっています。国内で販売されている軽セミ1BOXカーの中ではモデルチェンジが2015年と新しく、このジャンルでは初めて予防安全装置の衝突被害軽減ブレーキが設定されています。
全高は5ナンバーミニバンを超える1910mm
エブリイワゴンは軽自動車界の中でも息の長いブランドで、源流となるキャリイバンから数えると7代51年、エブリイワゴン初代からでも6代33年続いており、軽自動車の中では4番目に古い歴史を持っています。1982年に発売された初代からキャブオーバー・レイアウトを採用しており、6代目となった現行車にも継承されています。
2015年に登場した6代目現行車は軽自動車のボディサイズ規格をフルに活用、エクステリアはほとんどボックスタイプのスクエアな形状になっています。とくに全高はハイルーフ仕様になると規格ギリギリの1910mmに達してしており、軽スーパーハイトワゴンや5ナンバーサイズのミニバンを超える高さになっています。
軽自動車は車幅が1475mmに定められているので、これだけ高いと横風を受けた時、スクエアなボディは不安定になりがちですが、エンジンが前席下にレイアウトされているので低重心と前後重量バランスが良くなること、さらに後輪駆動であることから横風が強い時やコーナーでも比較的安定した走行が可能です。
軽セミ1BOXカー3車種を比較
軽セミ1BOXカーは現在、エブリイワゴンの他にはダイハツのアトレーワゴンとホンダのバモスしか販売されておらず、合計3車種だけです。ここではそれぞれの主なスペックを比較します。
エブリイワゴン(PZターボスペシャル) | アトレーワゴン(カスタムターボRS) | バモス(Gグレード) | |
全長×全幅×全高(mm) | 3395×1475×1910 | 3395×1475×1875 | 3395×1475×1755 |
客室内寸法 | 2240×1355×1420 | 1970×1310×1350 | 1645×1250×1270 |
車両重量 | 970kg | 980kg | 990kg |
JC08モード | 16.2km/L | 14.8km/L | 16.8km/L |
最高出力 | 47kW(64PS)/6000rpm | 47kW(64PS)/5700rpm | 33kW(45PS)/5500rpm |
最大トルク | 95N・m(9.7kg・m)/3000rpm | 91N・m(9.3kg・m)/2800rpm | 59N・m(6.0kg・m)/5000rpm |
3車種のスペックを見ると室内寸法から最大トルクまでエブリイワゴンの優位性がはっきりします。アトレーワゴンは2005年、バモスに至っては1999年にそれぞれ現行車が発売されているため、基本設計の古さがスペックに表れているといえます。
前席はウォークスルーも可能
エブリイワゴンは6代目のフルモデルチェンジで車内設計を大幅に変更して空間容量を拡大しています。前輪とダッシュパネルの位置を前方へ移動させ、前席シートのスライド幅を225〜230mmにしたことによって運転席と助手席の足元の余裕を確保、左右独立型のリアシートはスライド幅が180mmあり、前後乗員間距離は1080mmまで広がりました。体型の大きい人でも後部席で足を組めるほどの空間があります。
インテリアは商用バンの改良型とは思えないほど高級感を演出しており、インパネには中央に大型スピードメーターを配置した三眼スタイルとなっており、ドアトリムからダッシュボードまで統一のカラーでコーディネート、センタークラスターはシルバーパネルで加飾してアクセントを加えています。また前席はベンチシートになっているのでウォークスルーも可能です。
他2車種にはない予防安全装置を標準装備
安全面ではレーザーレーダーブレーキを全グレードに標準装備しました。これはフロントガラスの上部に備え付けたレーザーレーダーによって前方車両との距離を検知、衝突の危険性が発生する距離になると警告ランプや警告音で運転者に知らせ、さらに接近した時は強制的にブレーキをかけるシステムです。アトレーワゴンやバモスには衝突軽減ブレーキの設定もないことを考えると、2車種にとって大きなビハインドとなるでしょう。
車中泊用のアクセサリーも充実
軽ワゴンはフロントにエンジンをレイアウトして前輪を駆動させるFF方式が主流です。それでもセミ1BOXカーが根強い人気を保っているのは車内空間の広さが大きな要因となっています。FF軽ワゴンは多彩なシートアレンジとなっていますが、フルフラットにすることができません。一方、セミ1BOXカーは座席をフルフラットにしても、まだ荷室に余裕があるほど長い室内長になっています。この広さから最近では車中泊を目的として購入する人が増えてきました。
エブリイワゴンは車内が他の2車種より広いことからとくに人気が高く、またベッドクッションやプライバシーシェード、車外でも着替えを隠すことができるカーテン&ターブキットなど車中泊用のアクセサリーも豊富に揃っています。小さな子供のいる家族でも利用価値はありますが、やはり車を中心としたレジャーを楽しみたい人ほどコストパフォーマンスを発揮する車種といえるでしょう。
筆者の主観的所見
セミ1BOXカーは軽FFワゴンに比べると、女性にはあまり向いていない車種です。まず運転席が前方ギリギリにレイアウトされているので、足元には前輪のタイヤハウスがあり、ペダル類はやや左側に寄っています。一般的なペダルレイアウトに慣れていると運転の最中に戸惑うこともあります。
車内が広くなるキャブオーバー型はエンジンが前席下にマウントされているので、どうしても振動と騒音が車内に伝わってくる他、運転席の座面が高くなるので乗降の際は足を高く上げる必要が出てきます。あまりスマートではなく、どうしても商業バンの改良型という一面が見え隠れします。
最後に経済性が低いというデメリットを持っています。PZターボスペシャルの新車販売価格は約164万円とコンパクトカー並ですが、JC08モードは16.2km/Lと軽自動車の中では極端に低い数値となっています。経済性やオシャレ感覚を求めるのであれば、セミ1BOXカーは選択肢から除外した方が賢明です。