〜TNGAが開発〜
トヨタC-HR〜走りや快適性よりもデザイン性を優先したクロスオーバーSUV
トヨタのC-HRは2016年12月に発売されたニューモデルのクロスオーバーSUVです。トヨタの新しいエンジニアリングアーキテクチャ、TNGAによって開発された2番目の車で、1.8Lエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド2WD、1.2Lにターボチャージャーを装着したガソリンモデル4WDの2ラインが設定されています。
ヨーロッパで鍛えたしなやかな足回り
TNGA(Toyota New Global architecture:トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)は今後、トヨタのさまざまな車種の基幹となる新型プラットフォームの略称で、すでに4代目プリウスに採用されています。しかしC-HRと動力ユニットは共通しているものの、エクステリアデザインから駆動系に至るまでまったく異なり、同プラットフォームを採用している車種とは思えないほど差異化が図られています。
C-HRは225/50R18の大径タイヤを装着、ワイドなタイヤフェンダーや樹脂モールをフロントからリアエンドまで下部に配置するなど見た目はアグレッシブですが、最低地上高は2WDで140mm、4WDでも155mmしかないのでオンロードタイプのクロスオーバーSUVといえるでしょう。
実際、トヨタはC-HRをドイツのテストサーキットとして有名なニュルブルクリンクやヨーロッパの市街地に持ち込んで約10万mのテスト走行を行い、サスペンションの熟成を図っています。その結果、コンパクトサイズでありながらトヨタ車の標準的なサイズを超えたスタビライザーを装着してロール剛性を抑えることに成功、さらにリアアッパーサポートの緩衝材にトヨタ初となるウレタン素材を採用して石畳のような荒れた路面や段差を走る際でもしなやかでボディをフラットに保つ乗り心地を実現しています。
ホンダのクロスオーバーSUVヴェゼルと主なスペックを比較
コンパクトサイズのクロスオーバーSUVは世界中で流行しており、国内メーカーも各車種を販売しています。ここでは、それら国内メーカーの中からC-HRと同じくハイブリッドシステムを搭載しているホンダのヴェゼルと主なスペックを比較します。
C-HRハイブリッドG | ヴェゼルハイブリッドZ | |
全長×全幅×全高(mm) | 4360×1795×1550 | 4295×1770×1605 |
客室内寸法 | 1800×1455×1210 | 1930×1485×1265 |
車両重量 | 1440kg | 1280kg |
最低地上高 | 140mm | 185mm |
最高出力 | 72kW(98PS)/5200rpm | 97kW(132PS)/6600rpm |
最大トルク | 142N・m(14.5kg・m)/3600rpm | 156N・m(15.9kg・m)/4600rpm |
JC08モード | 30.2km/L | 26.0km/L |
モーターパワー | 53kW(72PS) 163N・m(16.6kg・m) | 22kW(29.5PS) 160N・m(16.3kg・m) |
車両本体価格 | 2,905,200円 | 2,670,000円 |
C-HRのボディサイズはヴェゼルだけでなくマツダのクロスオーバーSUV、CX-3もしのぐほどコンパクトサイズの中では大柄ですが、客室内寸法はヴェゼルの方がはるかに広く、またエンジンパワーにモータートルクを合わせた動力性能でも優位に立っています。JC08モードに関してはC-HRが優っており、総合的に見るとC-HRはデザイン性を重視したマイルドなクロスオーバーSUVといえるでしょう。
車内空間が狭く、しかも動力性能のマイルド感が強いとカッコだけの車に映りがちですが、じつはここがトヨタの販売戦略が巧みな部分といえるでしょう。トヨタの独自調査ではコンパクトSUVの場合、購入動機の約40%がエクステリアデザインという調査結果が出ていることから、あえて車内空間を犠牲にしてもボディフォルムに力を注いだことがうかがわれます。
捕食動物の筋肉を思わせるサイドビュー
デザイン性を優先したエクステリアは確かにこれまでのトヨタ車には見られないアグレッシブなフォルムを持っています。フロントマスクは最近のトヨタのアイコンとなっている大口径のロアグリルを採用、シャープなヘッドライトはウインカーと一体型でラジエターグリル中央からフロントフェンダーまで回りこみ、前後の膨らんだタイヤハウスは躍動する捕食動物の筋肉を思わせる造形となっています。
リアフェンダーから上部のキャビンは絞り込まれているため、あらゆる角度から見ても流線型が保たれている優れたフォルムですが、この絞り込まれた分だけ後部席は狭くなっており、またサイドウインドウが切れ上がっているので圧迫感もあります。トヨタはこれまで居住性を含めたあらゆる性能で80点以上の車を作ってきましたが、C-HRに限ってはこの鉄則を覆してデザインに特化、エッジの効いたトヨタらしくないトヨタ車といえるでしょう。
クルマのムダを楽しめる人には最適の車種
オンロード向きのクロスオーバーSUVでありながら動力性能はマイルド、しかも車内空間が狭いとなれば車種としての優位性はほとんどないように思えますが、それらの低いユーティリティ性を上回るほどのデザイン性を持っているのがC-HRです。大人数を乗せる機会が少なく、クルマに個性を求め、ムダを楽しめる人には年齢性別を問わず最適な車種といえます。
筆者の主観的所見
C-HRの売れ筋グレードはハイブリッド仕様になりますが、コストパフォーマンスを優先するなら1.2Lガソリンエンジンのターボ装着モデルがお勧めです。
3ナンバーサイズのボディにターボ装着とはいえ1.2Lではアンダーパワーに思われますが、最高出力は85kW(115PS)/5200〜5600rpm、最大トルクは 185N・m(18.9kg・m)/1500〜4000rpmと日常的に使う回転域をトルクフルにしているので都市部であればストレスを感じることなく走行できるでしょう。
もっとも安価なS-Tグレードであれば新車販売価格が約251万円で、ハイブリッド仕様のGより約40万円も節約できます。