〜日本車のステイタス〜
トヨタ・クラウンは国内販売車の優等生的存在
クラウンはトヨタのフラッグシップモデルというだけでなく、日本国内販売車のステイタス的存在となっている高級セダンです。車歴の長さや日本の道路事情に合わせた機能が 持つ信頼性から官公庁の公用車、企業の社用車、さらにパトカーなどの業務車両としても多く採用されています。
アメリカ車の影響から脱却して日本人向けの車種へ
初代の開発着手は1952年で、3年後の1955年より販売が開始されました。エンジンは排気量1.4Lの直列4気筒OHVで、それまでの汎用トラックシャーシではなく乗用車専用シャーシに搭載しました。後部席の乗降をしやすくするためにサイドドアの開閉方式を観音開きにしたことが大きな特徴となっています。クラウンの高級感は第二次大戦直後、国内を走っていたアメリカ車から影響を受けています。
2代目からはペリメーター型のフレームが採用されます。ボディ周辺にフレームを取り付ける形状で、セミモノコック型とも呼ばれるこのタイプは低床化に貢献、ボディとシャーシが基本的に分離しているので乗員の快適性が高くなります。クラウンは国内でも珍しくペリメーターフレームを長く採用、スタンダードモデルのロイヤルにフルモノコックボディが使用されたのは1995年に発売された10代目からです。
現行車は2012年にフルモデルチェンジされ、12代目となります。この間、ボディサイズは大きくなり、アメリカ車の影響から脱却して日本的な高級感を追求、伝統の直列6気筒エンジンは姿を消してV型6気筒やダウンサイジング化された直列4気筒が搭載されるようになりました。またハイブリッド車がラインナップに加わっていることも大きな変化のひとつです。クラウンは日本の高級セダンの歴史そのものといえるでしょう。
日産のフーガと主なスペックを比較
かつて、クラウンのライバル車といえば日産のセドリック/グロリアがその地位に長く存在していましたが、日産は2004年に両車種の生産を終了、高級セダンの後継車はまったくのニューモデルとなるフーガに引き継がれました。ここではクラウンのスタンダードモデルとなるロイヤルとフーガのハイブリッド仕様における主なスペックを比較します。
クラウン・ロイヤルサルーンG | フーガ・ハイブリッド | |
全長×全幅×全高(mm) | 4895×1800×1460 | 4980×1845×1500 |
客室内寸法 | 1975×1510×1190 | 2090×1535×1215 |
車両重量 | 1680kg | 1850kg |
JC08モード | 23.2km/L | 17.8km/L |
エンジン最高出力 | 131kW(178PS)/6000rpm | 225kW(306PS)/5800rpm |
エンジン最大トルク | 221N・m(22.5kg・m)/4200rpm〜4800rpm | 350N・m(35.7kg・m)/5000rpm |
モーター最高出力 | 105kW(143PS) | 50kW(68PS) |
モーター最大トルク | 300N・m(30.6kg・m) | 290N・m(29.6kg・m) |
フーガはロイヤルよりもボディサイズが大きく、走行性能を示すスペックでもやや上回っています。内装でも職人の手による銀粉木目フィニッシャーをダッシュボードやセンターコンソールに使用するなど国産車トップクラスのラグジュアリー感を演出しており、高級セダンとしてはクラウンにまったく遜色ありません。
しかしクラウンにはフーガに匹敵するボディサイズと走行性能を持つ上位車種マジェスタがあり、逆に日産にはロイヤルに匹敵する車種がありません。日本全国の道路事情を考慮した時、フーガでは大きいと感じるユーザーに取ってロイヤルと同サイズの車種を持たない日産は、高級セダンのジャンルでウイークポイントを抱えているといえます。
日本の道路と日本人の感受性を考えた設計
クラウンは長い歴史の中で、日本国内を走る日本人のための開発を続けてきました。そのノウハウを最大限に活かしているのが現行車です。2850mmのロングホイールベースを持ちながら最小回転半径はわずか5.2m(フーガは5.6m)なので狭い路地でも小回りが効き、全幅は1.8mに抑えられているので立体駐車場にも入庫することができます。
ステアリングとシートは前後上下の調節幅を拡大させ、小柄な体型の人でも視認性の良いドライビングポジションを確保できる他、運転席には疲労を和らげる電動式のランバーサポートを装着、後部席のセンターアームレストにはリアオートエアコンを始めとする各種コントロールスイッチが付いており、どの座席に座っても快適性が保たれる設計になっています。
スタンダードな安心感を手に入れたい人に最適な車種
インパネ中央に設置されているトヨタマルチオペレーションタッチのディスプレイはドアを開けるとウェルカムムービー、エンジンを始動するとオープニングムービー、さらに季節の変わり目には季節限定ムービーが流れるなど小技も効いています。
ステイタスを示す車種は数多くありますが、その中でクラウンはもっとも標準的といえるでしょう。対外的なイメージも含めてステイタスのアピールに安心感を求める人に、これほど最適な車種は他にありません。
筆者の主観的所見
クラウンにはロイヤルの他にアスリートがあります。基本的な構造は同じですが、王冠型グリルをバンパーロア部分まで拡大させてフロントマスクを大胆に変え、アグレッシブなデザインになっています。クラウンといえばかつて「親父車」という印象が持たれていましたが、アスリートであれば「粋な親父車」的イメージになるでしょう。この「親父車」という意味には、若年層が乗っても似合わない、という意味も含まれています。
ロイヤルにしてもアスリートにしても、およそ現在の車に投入されている最先端技術が搭載されており、オーソドックスな外観からは想像できないほどの必要十分な機能が備わっています。走行性能、内装ともに高水準の平均値を保っており、クラウンを望むユーザーの要求にきちんと応えています。
いわば国内販売車における優等生的な存在であり、高級セダンのベンチマークでもあります。車をステイタスと考える人、あるいは走る道具や移動手段と考える人でも一度乗ればそれなりの満足感を得られる車種です。