〜「乗りこなす」楽しみ〜

フィアット500ツインエア〜クルマの運転を純粋に楽しめる人でなければ苦痛か

フィアット500ツインエアは直列2気筒0.88Lのエンジンをフロントに搭載した2BOXハッチバックカーです。イタリア車の中でもとくに個性的な車種なので万人に向いているというクルマではありませんが、多少の面倒な点があってもクルマを操ることの面白さを実感したい人であれば、試乗するだけでも価値のあるクルマに仕上がっています。

メーカー車両情報・フィアット 500ツインエア

微妙にうるさい騒音と不快にならない程度の振動を発生する2気筒エンジン

近年、500ツインエアほど自動車業界を驚かせた車種は他にないでしょう。ダウンサイジングの必要がないコンパクトなボディに、わずか0.88Lの2気筒という、現在の乗用車には一切使われていないエンジンを搭載したことがその理由です。

エンジンの気筒数は端的に言うと多い方が振動を少なくすることができます。2気筒の場合、単気筒と同等の振動が発生するためバランスシャフトを取り付けなければ振動を軽減することができません。

ツインエアは一応、バランスシャフトを装着していますがそれでも一般的な、とくに高価といえない車種に比べてもバタバタと2気筒らしい騒音を発し、わずかですが車内にも振動が伝わってきます。静かな音に慣れているユーザーに取ってはかなり騒々しく感じるでしょう。もちろんフィアット側は「それが何か?」という涼しい顔であることは言うまでもありません。

smartのフォーフォーと主なスペックを比較

フィアット500ツインエアの面倒な点はエンジンの騒音だけでなくトランスミッションの操作やトルクバンドの使い方などいろいろありますが、それらは同時に魅力にもなり得るので、ここではひとまずライバル車との比較を行います。

ただし、ツインエアほどの強烈な個性を持つコンパクトカーは類がないので、とりあえずメルセデス・ベンツから販売されているユニークなコンパクトカー、smartのフォーフォーを取り上げてみました。

500 TwinAir POPforfour passion
全長×全幅×全高(mm)3570×1625×15153550×1665×1545
客室内寸法2300mm2495mm
車両重量1010kg1010kg
排気量875cc875cc
最高出力63kW(85PS)/5500rpm52kW(71PS)/6000rpm
最大トルク145N・m(14.8kg・m)/1900rpm91N・m(9.3kg・m)/2850rpm
トランスミッションATモード付き5速マニュアル電子制御6AT(6G-DCT)
JC08モード24.0km/L22.3km/L
車両本体価格2,289,600円2,160,000円

ボディサイズはほぼ同じですがフォーフォーはツインエアよりも全幅が広くホイールベースが長く設計されているので直進安定性では優っているといえるでしょう。またエンジンパワーはツインエアの方がありますが、これはインタークーラー付きターボチャージャーが装着されているためで、燃費効率を高めるためのECOスイッチをONにすると約5kW、45N・mほどパワーが下がります。

このボディサイズでキビキビと走りたいのであればツインエアの方が向いていますが、実用性も少しは欲しいというのであれば間違いなくフォーフォーをお勧めします。

ポルシェと同じリアエンジン・リアドライブなので運転もそこそこ楽しめる上、最小回転半径は4.1m(ツインエアは4.7m)と小さく、レインセンサーやクルーズコントロール、Bluetooth/USBインターフェイス付AM/FMラジオなど快適装備も用意されています。ちなみにそれらの装備はツインエアには一切ありません。

運転方法をマスターすると途端に魅力溢れる車種に変身

ツインエアでもうひとつ厄介なのがデュアロジックと呼ばれるトランスミッションです。

これはシングルクラッチを電子制御で操作できるのでATのように2ペダルによる運転が可能となりますが、あくまでマニュアルシフトのATモードなので、一般的なATのようにアクセルを踏んでいるだけで自動的に変速するわけではなく、シフトチェンジが必要だな、という回転域でアクセルを離す必要があり、ある程度マニュアルシフトの操作を知っている人でなければ大きな変速ショックを味わうことになるでしょう。

さらにエンジンの最大トルクが1900rpmと低い回転域に設定されているのでストップ&ゴーの多い都市圏で走行するのであれば頻繁なシフトチェンジを行い、トルクバンドを最適に保つ必要があります。なかなか面倒で厄介なクルマですが、運転方法をマスターすればこれほど面白いクルマは滅多にありません。

乗りこなす楽しみを味わいたい人に最適の車種

デュアロジックには2ペダルで操作できるマニュアルモードがあり、これを駆使して狭いトルクバンドでクルマを操るのはまさにスポーツカーと同じ快感があります。

普段はやかましいと感じるエンジン音も操っている時は気分を盛り上げてくれるサウンドとなり、少しでもシフトミスをすれば一気にエンジンパワーが落ちて自分の未熟な運転がツインエアに「笑われている」気分になるでしょう。逆に言えば、現在のクルマのほとんどが最新機能によって「乗せてもらっている」ことに対してツインエアには純粋に「乗りこなす」楽しみを潜めた車種とも言えます。

前述したように、ツインエアは万人に向かない、どころかMT操作に慣れ、クルマの運転を純粋に楽しめる人でなければ苦痛さえ感じる車種です。したがって、ある程度歳を取って国産車に飽きた人、または快適性のあるクルマを所有しており、もう1台欲しいけれど軽自動車はイヤという、エンジン同様に好みのトルクバンドが極めて狭い人に最適の車種となります。

筆者の主観的所見

モーターバイクのような直列2気筒エンジンは国内の軽自動車排気量規格が360ccの時代にホンダのN360を始めとして各車種に搭載されていましたが、1975年に550ccへ改正されてからはすっかり姿を消しました。いくらダウンサイジング化が進んでいるとはいえ、今後、直列2気筒が主流になることはなく、その意味でもフィアットが500に直2エンジンを搭載した意味が測りかねます。

しかし、クルマの進化とはまったく別の意味で搭載したとしたら、フィアットというメーカーの懐の深さを理解できます。高価なスポーツカーでもないのにユーザーを選び、エンジンの振動や騒音に関しては一応、対策は施しているけれど万全ではなく、使い勝手もけっして良くはないし速くもないけれど、運転する楽しさだけはきちんと用意している、そんなクルマを販売するのはクルマに対する愛情と遊び心がなければ実現不可能でしょう。

同じイタリア車のフェラーリとは価格も性能も対極にありながら、根本的な部分では共通しているのがツインエアです。国産メーカーでは絶対に開発、販売することはあり得ない車種です。


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