飲酒運転による死亡事故件数の推移〜行政処分の強化の歴史
グラフ・内閣府「交通安全白書」より筆者作成
2007〜2017年の飲酒運転による事故件数と死亡事故件数の推移です。過去に起きた2つの飲酒事故の社会的影響がきっかけになり、20年で事故件数は7分の1に、死亡事故件数は6分の1と大幅に減少しています。
ここでは、2つの飲酒事故(東名高速飲酒運転事故・福岡海の中道大橋飲酒運転事故)の社会的影響で、行政処分が強化されてきた流れを説明します。
東名高速飲酒運転事故
1999年11月28日東京都世田谷区の東名高速道路東京IC付近で発生。飲酒運転の12トントラックが普通乗用車(妻が運転、夫、3歳と1歳の2女児)に衝突して起きた交通事故により幼い姉妹が死亡した。
加害者のトラック運転手は、事故当日はウイスキー1瓶(750ml)とチューハイ一缶を飲み、事故時はまっすぐ立てないほど酩酊状態だった。呼気中のアルコール濃度は1リットルあたり0.63mgあった。運転手に懲役4年を命じた判決が確定。運転手と高知通運に賠償金2億4979万5756円を連帯して支払うことを命じられた。
社会的影響
この事故をうけ、2001年12月に刑法改正が施行され、最高刑が懲役15年の危険運転致死傷罪が刑法に新設されることになった。さらに2002年6月1日に道路交通法で酒酔い運転、酒気帯び運転、悪質な運転への罰則が強化され、「酒気帯び」についても、対象が呼気中のアルコール濃度0.25mg以上から0.15mg以上に引き下げられた。
福岡海の中道大橋飲酒運転事故
2006年8月25日福岡市東区の海の中道大橋で発生。福岡市内在住の家族(夫33歳が運転・29歳の妻・長男4歳・次男3歳・長女1歳)のトールワゴン三菱・RVRが、生ビールジョッキ3杯、焼酎5合瓶(900mml)、さらに焼酎5号瓶3分の1を飲み飲酒運転をしていた当時福岡市職員の男(当時22歳)の乗用車に追突され博多湾に転落して水没。子供三人が水死した事故。
裁判では、主犯の加害者に危険運転致死傷罪が適用されるかが争点になるが、最高裁で危険運転致死傷罪と道路交通法違反を合わせた懲役20年の刑事罰が確定。また、被害者家族が損害賠償3億5,000万円を求めていた民事訴訟は、2012年10月加害者が謝罪し和解が成立(金額は明らかにされていない)。
社会的影響
この事故で問題視されたのは、加害者が被害者を救助することなく逃走したこと、事故直後に加害者に大量の水を飲ませ飲酒運転を隠蔽させようとした者と、飲酒運転と知りながら車に同乗した者がいたこと。(*2人とも不起訴)危険運転致死傷罪を立件するための難しさから「逃げ得」になることが指摘された。
この「逃げ得」を防止するために、2007年9月の道路交通法改正で、ひき逃げの罰則強化と、飲酒運転をした者だけなく、お酒類を提供した人、車両を提供した人、同乗者にも罰則が適用されるようになった。さらに、2009年6月の道路交通法改正により飲酒運転や危険な違反行為の点数の引き上げと、欠格期間の延長が行われた。
自動車運転死傷行為処罰法とは
2014年5月、飲酒運転などの悪質運転による死傷事件の実態に対処ができるように、それまでに刑法に規定されていた「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」を刑法から抜き出して、新たな法律として整備されました。正式名称は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」といいます。
自動車運転死傷行為処罰法ができた理由
悪質な危険運転によって起こる死傷事故の中には、危険運転致死傷罪に当てはまらないために、自動車運転過失致死傷罪が適用された事例が多く、悪質な危険運転が原因なのに過失(不注意)による自動車運転過失致死傷罪として軽く処罰されるというのはおかしいという意見が多く、法整備が求められていました。
自動車運転死傷行為処罰法のポイント
「飲酒影響等の発覚免脱罪」が追加され、「自動車運転過失致死傷罪」は「過失運転致死傷罪」に変更されています。
罪名 | 概要 | 刑罰 |
危険運転致死傷 | アルコールまたは薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で車を走行させて事故を起こした場合 | 死亡:懲役1年~20年 傷害:懲役15年以下 |
アルコールまたは薬物の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、正常な運転が困難な状態位になり、事故を起こした場合 | 死亡:懲役15年以下 傷害:懲役12年以下 | |
発覚免脱 | アルコールまたは薬物の影響により正常な運転が困難な状態で事故を起こし、飲酒、薬物使用の発覚を免れようとした場合 | 懲役12年以下 |
過失運転致死傷 | 運転上必要な注意を怠り事故を起こした場合 | 7年以下の懲役もしくは禁錮 または100円以下の罰金 |
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