わかりやすいフォルクスワーゲン排出ガス規制不正問題まとめ
ドイツのフォルクスワーゲン社の不正問題のニュースには、驚いた人も多いのではないだろうか。世界中を巻き込んだ大ニュースとなったため、ここで改めてまとめてみたい。
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始まりはアメリカからだった
今回の排ガス問題は、ディーゼル車とガソリン車の排気ガスのNOx(窒素酸化物)と、CO2(二酸化炭素)の2種類の、排出量の数値の不正である。
●2015年9月半ば
米環境保護局(EPA)が、VWの一部の車が排出ガス規制を逃れているという報告により調査に入った。さらに、米司法省もVWが規制試験の不正を認めたことを受けて刑事捜査を行う。この時の対象車種は、2009年から15年に発売されたVWの「ジェッタ」「ゴルフ」「ビートル」、傘下の独アウディ「A3」と、2014年から15年発売のVW「パサート」のディーゼル車5車種である。
米環境保護局によると、1台当たり3万7500ドルの制裁金が考えられる。2009年から15年型の48万2000台に対して、最大180億ドル(約2兆億円超)という計算になる。また、9月20日には、ウィンターコルン会長が謝罪声明をサイトに発表した。
とアウディのディーゼルエンジン車は、排気ガスをコントロールするソフトウェアを検査時だけ搭載しており、米環境保護局によると通常の走行時の排気ガスは、基準の10~40倍になるという。
さらにVWによると、ディーゼルエンジン「EA189」を搭載した車両の試験の結果と実際の走行時の排ガス量のデータが異なり、このエンジンを搭載した車両の販売数は全世界で1100万台になるということだ。
何が問題だったのか
規制よりも多くなってしまった排出ガスの量を、ソフトウェアの不正で逃れたことが問題なのだが、数字ではこのようになっている。
よく知られていると思うが、EUでは排出ガス規制の基準は「EURO(数字)」で決められている。まず1993年にEURO1が導入されてから、徐々に規制が厳しくなってきている。以下はNOx(窒素酸化物)の排出基準である。
ディーゼル車の排出基準(出典:Dieselnet)
- Euro5 0.18g
- Euro6 0.08g
ディーゼルの排ガス規制は、EURO5(2009年〜)では0.18gである。EURO6になると、目標は1km辺り0.080gという数値に大幅に強化される。メーカーの開発の問題もあるため、いきなり0.080gにするのではなく、2017年から段階的に規定に近づけるようになっている。
ちなみに、不正が発覚したVWの「ジェッタ」と「パサート」は、それぞれ窒素酸化物の量が0.610gから1.500g、0.340gから0.670gとEURO5を大幅に超えていた。
●9月27日
VWはリコール(無料回収、修理)や、ディーゼル車の改修などの対応の検討を発表する。この時点では世界で1100万台、ドイツ国内では約280万台と推定される。
●11月3日
ディーゼルエンジンの調査中に、CO2の排出量の不正も発見される。この件ではグループの小型ディ―ゼル車やガソリン車も含む、約80万台が対象と考えられ、対策費は約20億ユーロの試算になった。
VWの対策はドイツ連邦自動車交通局が承認
●11月25日
ドイツ連邦自動車交通局 (KBA) は、VWの提示した、対象の排気量1.6と、2.0リッターの「EA189」エンジンに関する具体的な技術的対策を承認した。これで大半の該当車両への対策が確定した。
●11月30日
ドイツ紙のウェルトは、ドイツ国内で246万台リコールの可能性があると発表した。VW154万台、アウディ53万1813台、シュコダ28万6970台、シート10万4197台になる。
●12月16日
「EA189」(1.2、1.6、2.0リッター)ディーゼルエンジン対策もドイツ連邦自動車交通局に承認され、全対象車の解決策が確認された事になる。
世界に飛び火する排出ガス問題
この排出ガスの問題は、当然ながら世界中に飛び火してしまった。主な動きをまとめてみた。
【アメリカ】
2月5日・ニュージャージー州当局が、VWと傘下のポルシェ、アウディを提訴した。既に司法省以外にもテキサス、ニューメキシコ、ウェストバージニア各州などがそれぞれ提訴している。「消費者に対する大掛かりな詐欺行為と、州の排ガス規制法違反」という内容で訴えており、民事制裁金と消費者への賠償を求めている。
【ブラジル】
11月12日・ブラジル環境・再生可能天然資源院が5000万レアル(約1300万ドル)の罰金を科すと発表した。VWは、アメリカで問題のあったソフトウェアを搭載したピックアップトラック「アマロック」をリコールする事になった。台数はブラジルで販売した1万7057台だ。
【インド】
インド国内でも、11月8日までに10万台をリコールする見通しだ。不正のエンジンを搭載した輸入車に、国内製造の2万台も含まれていると報道されている。
【オーストラリア】
10月9日・フォルクスワーゲン・グループ・オーストラリアは、国内で販売したディーゼルエンジン車の対象全車両に、自主的なリコールを行う。台数は膨らみ10万台近くになる。内訳は、シュコダが5000台。VWは乗用車6万台超と商用車1万7000台超である。
【イタリア】
9月27日・VWイタリア担当部門は予防的措置として、国内で問題車両の販売停止を求める通知を出した。台数は4万台と予想されている。
【中国】
国内の環境保護団体が、VWを相手取り天津で裁判を起こしたと発表した。
【EU】
欧州委員会はVWに対して、排ガス不正対象車に関する加盟国ごとの不正対象車の正確な数や技術的な改善案、リコール詳細の提供を求めた。また、欧州の顧客にも米国と同様の補償を要求している。
日本では
「フォルクスワーゲングループジャパン公式サイト」には、日本に正規輸入されているVW車に不正の対象車はないと掲載されている。
●10月23日
「EA189」ディーゼルエンジンを搭載したVW車の、日本国内への並行輸入台数を国土交通省に報告、調査した結果、VW全体では正規販売店を通さない36台が該当した。
●11月6日
フォルクスワーゲンAGがCO2排出の問題で日本仕様の同エンジン搭載車を調査した結果、今回の件には該当なしと確認された。現在日本で販売しているACT付き1.4L TSI搭載車のリストは以下の3車種10グレードである。
- Polo BlueGT
- Golf TSI Highline
- Passat TSI Trendline、TSI Comfortline、TSI Highline、TSI R-Line、Passat Variant TSI Trendline、TSI Comfortline、TSI Highline、TSI R-Line
まとめ
欧州自動車工業会(ACEA)からも、規制が過度に厳しくなるとディーゼル車の価格が高額になり過ぎ、自動車メーカーが販売停止に追い込まれるのではと、不安視する声も出ている。
今回は規制を逃れるために、結果として不正なソフトウエェアを使用したのだが、世界的企業ということもあり、リコールや提訴など、各国で問題が続出してしまった。台数も多いため金額も膨大で、VWは対応に追われることになった。(高井ゆう子)