現代におけるアメ車の魅力を語る〜右ハンドル車を作ったらいかがですか?


第45代アメリカ大統領に就任したドナルド・トランプ氏は2017年1月23日、経済界首脳との会談で貿易赤字に触れ、日本車はアメリカで溢れるように走っているのに日本でアメリカ車が走っていないのは不公平であり、日本はアメリカ車販売に協力すべきである、といった主旨の発言をしました。

この発言もアメリカ国内の雇用増加というトランプ氏の公約を実現するためのデモンストレーションで、これほど共和党とその支持者のためだけに活動して世界を混乱させる大統領も珍しいのですが、それはさておき話を日本国内におけるアメリカ車の販売に戻すと、とりあえず売ってみたらいかがでしょう?というのが筆者の見解です。

1960年代を思い起こさせるマッスルカーの復活

70〜80年代のアメ車はオイルショックによる自動車の転換期に乗りきれず、デザインや性能面で低迷していましたが、最近のアメ車は本来の個性と走行性能を取り戻し、加えて世界的な潮流となっているダウンサイジング化も積極的に技術開発を行い、燃費効率も上がっています。

なにより魅力的なのはアメリカン・マッスルカーの復活でしょう。ダッジ・チャレンジャーやフォード・マスタング、シボレー・カマロといった代表的な車種は1960代後半から70年代初頭に販売された初代のデザインを現行車に反映させ、モダン・マッスルカーと呼ばれてアメリカ国内では高い人気を集めています。

マッスルカー最大の特徴はV型8気筒OHVの大排気量モデルで、チャレンジャーにもクライスラー伝統の(ダッジはクライスラーのブランド車種)392HEMIエンジン搭載車を設定していますが、ラインナップにはデザイン性を損なわずに安価で購入できるV型6気筒モデルSXTも設定されています。

ダッジ・チャレンジャー

ダッジ・チャレンジャーは廉価モデルでも十分なパフォーマンス

廉価モデルといっても搭載されているV型6気筒は3.6LのDOHCで最高出力は305hp、これに8速のATを組み合わせているので走行性能に関しては欧州車の優れたスポーツカー以上のパフォーマンスを発揮します。V8モデルになると最高出力が485phになるので運転スキルを求められますが、チャレンジャーのデザインが好きで購入するのであれば、その魅力はSXTでも十分に味わえます。

ひとつだけ残念な点があるとすれば、大排気量OHV独特の低排気音を楽しめないことでしょう。とはいえ、このSXTのアメリカ国内販売価格は27,190ドルです。72回の分割払いも用意されていて、これを利用すれば月々わずか428ドル(アメリカはボーナス払いがないので均等払い)でチャレンジャーを手にすることができるのです。

アメ車はでかいから日本国内の道路事情に合わないと言う人もいますが、チャレンジャーの場合、全長が5021mm、全幅が1922mmなので、メルセデス・ベンツのEクラスよりもわずかに大きい程度です。確かに都市部の路地裏を走るのには向いていませんが、幹線道路であればさほど大きいと感じることもなく、高速道路の走行ではアメ車の持つ爽快感と優越感を味わえることは間違いありません。メルセデス・ベンツEクラスの廉価版E200 AVANTGARDEは国内販売価格675万円であることを考えると、27,190ドルはなんとも購入意欲をそそる価格設定といえるでしょう。



クライスラー300 SRT8

クライスラーの正規ディーラーに用意されているのは2車種だけ

現在、国内にはクライスラーの正規輸入代理店がありますが、販売している車種は4ドアタイプの300Sと高性能モデルのSRT8の2タイプしかなく、ダッジブランドは1車種も販売していません。また300Sも販売価格が約577.8万円と高く、これでは購入希望者が少なくなるのも無理のないことです。300Sは初代がマッスルカーの起源となっているだけに現行車も十分に魅力的ではありますが、やはり4ドアセダンというカテゴリーにあるため、どうしてもBMWやアウディの競合車種となってしまうことからブランドネームに欠けてしまうデメリットもあります。

アメリカ車を日本で売るなら、ブランドネームがあってアメリカ車らしい魅力がアピールできる車種の充実が不可欠でしょう。ダッジはマッスルカーのチャレンジャーだけでなく、ピックアップワゴンのデュランゴやハイパフォーマンススポーツカーのヴァイパーなど個性的でダッジを強く感じさせる車種が揃っています。とくにミドルサイズのハッチバックセダン、ダートはアルファロメオのジュリエッタをベースにしているだけに、日本の自動車市場でも十分に通用するモデルといえます。



キャデラックATS

キャデラックATSは日本のフルサイズセダンと同等価格

フォードが2016年1月に日本市場から撤退した現在、アメリカ車の正規輸入代理店で積極的に活動しているのはキャデラックとシボレーのブランドを持つGM、ジープを中心としたSUVメーカーのFCAでしょう。電気自動車のテスラも新参とはいえ、充電ステーションを飛躍的に増やすなどの発言を行って注目を集めています。

ただしFCAとテスラは販売車種の特殊性が強いのであまり一般的なユーザー向けとはいえません。結果的にアメ車を広い選択肢の中から探す場合はどうしてもGMブランドになります。

キャデラックはアメリカ大統領の公式車に指定されるほどのラグジュアリーセダンですが、廉価版のATSは479万円と国産フルサイズセダンとほぼ同じ価格設定に抑えられており、走行性能や車内装飾でも引けを取らないラグジュアリー仕様になっています。国産車やドイツ車のデザインに辟易している人に取って新鮮な車種であることは間違いないでしょう。



シボレーカマロ

アフターサービスも充実しているシボレー・ブランド

シボレーはピックアップタイプのミニバン、キャプティバと純粋なアメリカン・スポーツカーのコルベット、それからマッスルカーのカマロを扱っています。

とくにカマロはダッジ・チャレンジャーよりも全長、全幅ともに一回り小さく、しかもLT RSに搭載されているのは直列4気筒DOHCにインタークーラー付きターボチャージャーを装着した2.0Lエンジンという、マッスルカーでは考えられないようなダウンサイジングが図られた現代的な車種に仕上がっています。

ダッジ・チャレンジャー同様、2.0Lエンジン搭載車でもボディデザインに大きな違いはないのでマッスルカーの雰囲気は十分に味わえます。

またGMの正規ディーラー直営店は全国で22ヶ所しかありませんが、サテライト店や販売協力店は12ヶ所、サービス工場は66ヶ所あり、アフターサービスのシボレーコンプリートケアは新車登録時から3年間または走行距離6万kmの範囲内で車両に発生した不具合に対応しています。コンプリートケアに含まれるアシスト24は旅先や仕事先で故障が発生した場合、緊急修理や指定サービス工場へのレッカー、代替交通機関の確保や宿泊手配などを保証します。GMが扱う車種の魅力とアフターサービスを考えれば、その内容は日本で人気の高いドイツ車に劣るものではありません。

アメ車以外の輸入車はほとんど右ハンドル仕様を設定

にも関わらず、アメリカ車が日本で売れない最大の理由は日本で販売している車種のほとんどが左ハンドル車だからです。クライスラー300は右ハンドル仕様ですが、カタログ写真はすべて左ハンドル仕様になっており、アメ車は左ハンドルというイメージを高めてしまっています。

かつて国内生産を高める目的で輸入車に関税をかけていた1977年以前は、輸入車というだけでステータスが上がり、その象徴が左ハンドルだった時代がありました。しかし1878年の完成された輸入車に対しての関税撤廃から、世界中の自動車メーカーが日本市場で販売するために右ハンドル仕様の製造を始め、現在、国内で売られている輸入車はほとんどが右ハンドル車です。ポルシェでさえ受注生産で右ハンドル車を輸出するというのに、量産しているアメ車だけが左ハンドル仕様を販売し続け、しかもそれで日本市場が閉鎖的であるという言い分は通らないでしょう。

アメ車の魅力そのままに日本の流儀を取り入れる

現在、アメリカ国内で販売されているカマロの直列4気筒版LT RSはわずか25,905ドルですが、関税がかからないのになぜ500万円近い価格に跳ね上がるのか、これも不思議な話です。輸入車は高いから売れる、というイメージは一昔前のことです。アメ車はドイツ車と違い、緻密な車作りと上質なデザインではなく広々とした居住性と荒々しい迫力こそ最大の魅力といえます。輸入車の悪しき風習に従わず、ドイツ車よりも安い価格設定にするだけでも注目度は高まるでしょう。

郷に入れば郷に従え、とは日本の諺ですが、アメリカを除くほとんどの先進国自動車メーカーは日本の自動車市場を調査し、右ハンドル仕様を製造、輸入車の不安感を払拭させるために正規ディーラーを全国各地に置いて保証制度を充実させました。日本の自動車市場に合わせた経営を行ってきたからこそ、現在の販売台数があるといえます。アメリカ車を日本で売る気があるのなら、他の輸入車が歩んできた道を踏襲する必要があるでしょう。

アメリカのメーカーは本当に日本でクルマを売りたいか?

もっとも、冒頭のトランプ発言に対してアメリカの自動車メーカーがどこまで本気で受け止めているか疑問でもあります。日本市場開拓のために開発コストをかけるくらいなら、アメリカ本土内の販売に力を注いだ方が経済効果は上がるでしょう。このトランプ発言も、日本やアメリカの各メーカーがアメリカ本土内に工場を新設して雇用を増やすという飴玉的条件を差し出せば沈静化するはずです。

むしろ、トランプ大統領の怖さはこれからでしょう。公約に掲げられていた不法移民への取り締まり強化は実行されました。公約は他に銃規制緩和及び撤廃、銃購入のための権利、アメリカ軍再構築などがあります。本当にこれらも実現させるのかと思うと、背筋が寒くなってきます。いったい、アメリカはどこへ行こうとしているのやら。(金子忠義)

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