警察が来れない事故現場での保険請求
事例
バイク愛好家にとって郊外へツーリングすることは、大きな楽しみの一つになっている。美しい自然や壮大な景観を楽しもうと走行するため車が入れない林道などが多く、万一事故に遭遇すれば警察や救急車が入れない場所であることも少なくない。板垣則仁(55歳仮名)もそんな不運に見舞われた一人である。
板垣はバイクが唯一の趣味で、そのためか55歳になるまで結婚もせず、たびたび単独行やバイク仲間たちで集まってツーリングを楽しんでいた。
3月末のある休日、板垣は250ccの愛車に跨り仲間5人とあまり知られていない林道へオフロードツーリングに出かけた。幅員2~3m、総距離7.8km、もちろん路面舗装などされていない。春先だけに山側は残雪が残っていて、その下にはごろ石が潜んでいた。
林道へ4km位走行した地点で板垣のバイク後輪が残雪の下にあった小岩に乗り上げ、それが外れた時に後輪が空転したためバイクとともに転倒し、左足がバイクの下敷きになってしまった。すぐに仲間が助け起こしたが、どうやら左足の大腿骨が骨折したらしく激しく痛む。
ツーリングは中止となり、板垣は仲間のバイクの後部シートに乗せられて来た道を戻り、村道まで出て携帯で救急車を呼んでもらい最寄りの病院へ運ばれた。診断の結果は全治3か月という重傷になってしまった。
事故とケガの因果関係が証明できない場合は事故証明書が出ない。
保険を使うのだから警察への届出が必要だろうと仲間の一人が警察を呼んだところ、警官2名が病室へ来て板垣と友人たちから聴取し始めた。事故場所や事故状況を説明したが、警官は「警察が現場の実況見分を行っていないので事故場所の特定ができない」という理由で事故証明書は発行できないといわれてしまった。
事故証明が出ないと保険金請求ができないことはないが、保険会社の立場からすれば板垣の骨折は自宅の階段から落ちたといった交通事故以外のケガかもしれないと疑える。ツーリング仲間の証言も口裏合わせを疑われることは間違いない。保険調査とはまず疑うことから始めるからだ。
警察が来れないオフロード事故でも必ず事故現場確認が必要
板垣の場合、幸いにして聴取した警官がその日確かに板垣から届出があったが、ケガと事故との因果関係が証明できないので事故として扱えなかったと日報に届出者氏名・生年月日・事故車両の登録番号ほかを記載しておいてくれたので、事故事実が証明され保険金が支払われた。しかし、こうした記載が残っていることは稀である。
板垣がベッドで苦しんでいた時、病院へ来た警官が事故場所を特定したいので板垣の友人たちに事故現場まで同道してほしいといったのだが断られた、と併せて記載されていた。