飲酒が原因になったひき逃げ死亡事故の話

事例

「あの時、私が冷静に運転さえしておれば、従兄が死ぬこともなく妻が重傷を負うこともなかったのに」…山平義弘(36歳仮名)は、刑務所面会室のガラス越しに苦悶の表情を浮かべた。

山平と従兄の角田正弘(37歳仮名)は幼い頃から一緒に遊んだ従兄弟同士である。

その日も山平所有のスズキKeiに乗って午後7時頃から二人で一緒にカラオケへ行き、午後11時過ぎまで酒を飲んで歌いまくった。ところが角田が飲み過ぎたのか嘔吐し続け腹を押さえて苦しみ出したので、二人は慌ててカラオケ店を出てKeiの助手席に角田を乗せ、一旦山平の自宅へ向かった。

午後11時30分頃、山平の自宅へ到着したので助手席の角田に「救急車を呼ぶから」と言うと、角田は「救急車は恥ずかしいから嫌だ」と言う。山平は角田を助手席に残して自宅へ入り、電話帳で深夜でも診てくれる病院を探したが地元にはなく、約20km離れた隣町の救急病院しかないことがわかった。

山平の妻・幸子(32歳仮名)はその時、子どもと一緒に就寝していたところを山平に起こされ、「角田が大変なんだ、一緒に病院へ行ってくれ」と言われ、子どもを自宅へ残したままKeiの後部座席へ乗り込んだ。

山平は飲酒状態でKeiを発進させたが、隣町への約10kmは長い下り坂で、国道とはいえ外灯もない片側1車線道路である。山平は時速80km位でヘッドライトだけを頼りに下って行った。走行中に左カーブで角田が運転席に寄りかかって来たので、山平は左手で助手席へ角田を押し戻した時、運悪くハンドルが左へ切れ、三人が乗ったKeiは左路肩に立っていた道路標識柱に左前部から突っ込んでしまったのである。日付が変わった午前0時過ぎのことだった。

事故現場の放棄・逃走は自損事故でも「ひき逃げ」

事故後しばらくして気が付いた山平は、Keiの左半分が大破し、車外に放り出されて路肩の溝の中で血まみれになって倒れ込んでいる角田を見つけた。「身体を押しても反応がなく死んでいると思いました」と語る山平の耳には、「痛い、痛い」と叫ぶ後部座席の幸子の声も聞こえた。

その後の山平はパニック状態に陥り、不可解な行動をとる。そのまま事故現場を離れて山の中へ入り、山中を徘徊したのち翌朝友人宅へ現れたのである。「山中で自殺しようと思いました」その時の心境を山平はそう説明した。友人から実家へ連絡が行き、山平は母親に付き添われて警察へ出頭した。

飲酒死亡ひき逃げ事故で家庭崩壊の危機

刑務所面談の時の山平はまだ未決囚で、これから公判が始まるが懲役は免れないだろう。その後入院先で幸子にも会ったが、骨盤骨折と左手首骨折で車椅子だった。

「山平が飲酒していたことは分っていたのに、なぜあの時私が代わって運転しなかったのだろう。そうしてれば正弘さんも死ななくてすんだのに…」と幸子はうつむいて泣いた。

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