〜津波災害のために車に必要な備え〜
水没する車から脱出する方法〜ドライバーのための災害対策
アメリカでは車内に閉じ込めらたまま水没する事故で、年間平均400人程度の死亡者が出ています。
米国では水没する車からの脱出方法は、多くの報道番組で特集されているほどよく研究され、一般的に知られています。今回はその脱出方法を取り上げてみました。
水深が深い事故の場合、「水没が始まってから30秒から数分の行動が生死を別ける」といわれるほど初動対応が大切と教えられています。
しかし、あまりのパニックに水没している最中の車内から携帯電話で911番通報(日本の110番)して、時間を消耗したために命を落とす人が多く、「水没中に電話をかけると死ぬと思え」と警告されています。
日本国内での水没事故の現状
自動車ロードサービス事業専門のJAFによると、日本国内でゲリラ豪雨などで完全に車体が水没する死亡事故はあまりなく、夜間に見通しの悪い防波堤から海に転落したり、池や川へ落ちてしまう事故が毎年数十件起こっているそうです。
東日本大震災では沿岸地で渋滞中の車列を津波が直撃、車に閉じ込められたまま濁流に流されて亡くなった方が大勢います。沿岸部に住む方はあのような災害を想定して、車の水没に備える必要があるのではないでしょうか。
参考・自動車保険のサイト
深い水に浸かるとドアを開けるのは難しい
水没が始まると徐々に車に水圧が加わり、ドア半分の高さの60cm程度の水位でドアを開くには通常の約5倍の力が必要になります。*JAF調べ
ドアを開けて脱出する方法は後述しますが、これは大変難易度が高いので窓から脱出する方法が一番現実的ということになります。
電気系統は短時間で誤作動→ショートする可能性が高いので、電動式のパワーウインドウは動かなくなることを予想しなければいけません。窓を破って脱出することになります。
車の窓は特殊なので簡単に割れない
自動車の窓ガラスは「安全ガラス」と呼ばれる製品で、鈍器や金槌でも非常に割れにくい強化ガラスのように頑丈に加工されています。このガラスの特性を知らないと、水深が深い水没事故で命を落とすことになります。
この安全ガラスは、先端が尖っている物で叩くと割れやすい性質がありますが、ヘッドレストの鉄の棒・スマートフォンの角・車のキー等で、力一杯叩いても割るのは大変難しいことがJAFで実証されています。
また、座席のヘッドレストを引き抜いて、棒の部分をウィンドウとドアの溝に差し込みテコの原理で割ることができるという話もありますが、全車種で可能なのかは確証できません。
緊急脱出用ハンマーを車内に備えましょう
水没の非常時のために緊急脱出用ハンマー(画像)という製品が販売されています。このハンマーの先端は鋲のように尖っていて、安全ガラスを簡単に割ることができます。
柄の先はシートベルトを素早く切断できるカッターになっています。脱出用ハンマーは運転席から手探りでも掴める位置に設置しておきます。
ちなみに画像の緊急脱出ハンマーは、筆者がアマゾンで購入しました。安価で販売されているものなので、これを機会に購入してみてはどうでしょうか。
車の窓ガラスは割れても人を傷つけにくいように加工されている
車の安全ガラスは割れると画像のように蜘蛛の巣状にヒビが入り、派手に飛び散らないように加工されています。また、割れたガラスの破片は粒状で人を傷つけにくいようになっています。
窓を割るときの注意点
車のフロントウィンドウ(前側の窓)はフィルムが入ったさらに特殊で、頑丈な造りになっているので、割るのならサイドウィンドウか、後側のリアウィンドウということを覚えておきましょう。
水没する車から脱出する手順
①シートベルトを外す
まず、シートベルトを外します。
バックルが詰まって壊れている場合は、脱出用ハンマーのカッターでシートベルトを切ります。
②子供がいる場合、抱きかかえて脱出に備える
車内に子供がいる場合、素早く前部座席に移動させ抱きかかえます。同じく脱出用ハンマーのカッターでベルトを切ります。
③サイドウインドウを開ける・破る
浸水するスピードによっては着水直後は電気で動く場合ありますが、開かない場合は脱出用ハンマーで割ります。
水位が窓より高いと、窓を開けた(壊した)瞬間に水が勢いよく流入してくるので注意します。
④車から脱出する
子供がいる場合は、自分より先に子供を車内から出すようにします。搭乗者を全て車外に出してから、自分が最後に脱出するようにします。
以上①〜④のステップを、頭の中で演習をしておきましょう。
脱出用ハンマーが無い場合の脱出方法
脱出用ハンマーが無いと、脱出の難易度はずいぶん高くなります。足下に水が浸る程度の水位で、車にがかかる水圧でドアは開かなくなります。*スライドドアでも困難です。災害時に脱出用ハンマーが設置されていない車に乗り合わせる場合もあるので、こちらも紹介しておきます。
浸水が始まってドアが開きやすくなるチャンスは、次の3パターンになります。
- 車体が着水した直後
- 車外と車内の水位が、ドアを境に同じ高さになったとき
- 車体が完全に水没して、車内に水が充満したとき
1番目は着水とほぼ同時にドアを開く方法です。2番目と3番目を以下で説明します。
②外と車内の水位がドアを挟んで同じ高さになったときは、比較的にドアが開けやすくなるチャンスです。
しかし、水没するスピードが速いと、この条件になるのはほんの一瞬です。
③車内にできる限り水が充満するまで待つ方法です。わずかに天井に残った空気を深く吸ってから、渾身の力でドアを押し開けます。
最も難易度が高い脱出方法になりますが、ドアを開ける最後のチャンスになります。
まとめ
今回の要点は次の3つです。
- 水没する車のドアを開くのは難しい
- 車の窓を破るのは容易ではない
- 緊急脱出用ハンマーを車内に備えて脱出しやすいようにする
水没事故からの避難方法は国内ではあまり知られていません。沿岸部に住んでいる方は脱出用ハンマーを愛車に備えて、脱出までのステップを一度は頭に思い描いておきましょう。
水没車には十分な価値があります。万が一、水没事故に遭ってしまっても、「お金を払って車を処分」しないように注意が必要です。詳しくは水没車の買取で解説しています。
この記事の執筆のために、JAFの方から貴重な情報を沢山いただきました。
日本自動車連盟(JAF)さま、ありがとうございました。